Luhmann, Niklas, "Soziale Systeme: Grundlis einer allgemeinen Theorie," Suhrkamp, 1984.
(佐藤勉(監訳),『社会システム理論 上・下』,恒星社厚生閣,1993年.)

●要旨
 「社会学はある種の理論の危機に陥っている」(p.G).ルーマンは,社会学の経験研究が統一的な社会学理論を構築するに至っていないこと,さらに,一般理論の構築に向けた従来の試みが古典理論へ立ち戻ることによるものであったことを鑑み,生物アナロジーに基づくオートポイエシスの概念を取り入れたより普遍性の高い新しい社会システム理論を構築した.
 本書において,システムとは,複合性の大きい環境において,その環境と選択的に関わりあうことで存立を図ろうとするものと解される.それは「その環境に対する差異を生み出し,その差異を維持することをとおしてみずからを形成し,維持している」(p.24)ものである.つまり,システムは,自己準拠(セルフレファレンス)の働きによって,環境との差異(複合性の落差)から自らの姿を確認し,自らをつくりだす(オートポイエシス)のである.それは,システムの基底的な要素レベルにおいて,要素の継続的な再生産が実現されることによって,システムの存立が保たれる.オートポイエシス的なシステムとは,情報やエネルギーについては環境に依存しながらも,環境に対して閉鎖的なシステム,言い換えれば,自足的ではないが自律的なシステムにほかならない(pp.50-58).社会システムも例外ではなく,環境の複合性を縮減し,自己準拠的に自らを再生産することで存立を図るものと規定される.
 このようなシステム観にたって,社会システム理論を定式化するとき,システムを再生産するオペレーションを把握しなければならない.従来の行為理論が,社会的な産物ではない人間をよりどころとしたためにシステムとして捉えることができなかったことを踏まえ,ルーマンは「社会的なものを特別のリアリティとして構成している基礎的過程は,コミュニケーション過程にほかならない」(p.217)とし,社会システムを,その要素システムであるコミュニケーション自体が,コミュニケーションを再生産することによって存立するものとする(pp.214-227).
 また,人間は,複数の閉鎖的なシステムから成る複合システムであり,社会システムとは別のシステム,すなわち,環境とみなされる.ルーマンは,人間を構成する閉鎖的で自己準拠的な再生産として「生体的再生産と心理的再生産」(p.345)を区別し,それぞれ,生体システムおよび心理システムによって実現されうるとする.ここでは特に,コミュニケーション・システムを起動させうる心理システムが着目される.「心理システムと社会システムは,それ自体を再生産するためにそれぞれに異なる媒体,一方は意識を,他方はコミュニケーションを用いている」(p.509).また「二つのシステムが交互に他方のシステムの成り立つ前提条件となっているばあいに,相互浸透がみられる」(p.336)というが,コミュニケーションと意識は,この意味において相互浸透している.すなわち,コミュニケーションと意識は,互いに環境をなしており,意識がなければコミュニケーションは起きず,コミュニケーション過程において意識が呼び起こされる.ただ,それぞれは自己準拠的で閉鎖的なシステムであり,切り離されたものであることに留意しなければならない.
 心理システムと社会システムに共通して,選択に関する複合性を縮減し,自己準拠の基準として有意味なものを指示するものとして「意味」が存在する(pp.92-98).「心理システムと社会システムとがそれぞれのオートポイエシスを保証されるばあいに,心理システムと社会システムの相互浸透をとおして,それぞれのシステムが形成されることを可能にしているのが意味にほかならない」(pp.346-347).

●コメント
 ルーマンが描いた社会システムは次のように形成される.ある個人の心理システムの中で生じた意味によって,コミュニケーション・システムが起動される.それが別の個人の心理システムに意味を生じさせ,また,コミュニケーション・システムを起動する.そして,コミュニケーションがコミュニケーションを生み,それが積み重なって社会システムとなる.さらに,社会システムにおいて共通の意味が保持され,コミュニケーション・システムを介して,各個人の心理システムの選択の幅が狭められるとき,社会システムは環境に対して複合性を縮減できる.そして,コミュニケーションの再生産によって,複合性の落差を維持することができるとき社会システムは,システムとして維持されるのである.
 本書は,統一的な社会学理論の構築を目指し,パーソンズの行為理論を批判し,発展させようとした.社会システムと,それを構成する要素を,オートポエイティックなシステムとして捉え直すことで,極めて普遍的な理論構築を可能にした.ルーマンによれば,社会システムとは,環境の複合性に対応するためにつくられるものである.

林 幹人(2002年7月15日)