金子郁容,『ボランティア もうひとつの情報社会』,岩波書店,1992年.

●要旨
 本書は,著者自らの実体験やインタビューを通して,ネットワークが体現したものとしての「ボランティア」について,その編成原理や性質についてまとめ,それをベースに「情報社会」について論及したものである.
 ボランティアとは,「その状況を「他人の問題」として自分から切り離したものとはみなさず,自分も困難を抱えるひとりとしてその人に結びついているという「かかわり方」をし,その状況を改善すべく,働きかけ,「つながり」をつけようと行動する人である」(p.65).現代社会は,様々な巨大システムによって管理・運営されており,ボランティアを行うことは,それらによって規定されたルーチンからはずれることを意味する.そして,その結果もたらされる「不安感」や「違和感」こそが,ボランティアのもつ魅力とエネルギーであると著者は説明する.「個人がさまざまな社会問題に関心を持ち,心を痛めたとしても,結局のところ,一人ではなにもできないという無力感や焦燥感につつまれている現代の中で,ボランティアは,新しいつながりをつけてゆくためのひとつの具体的で実際的な方法を提示するものである」(p.7).また,著者は,ボランティアがもつ,自らの行動の結果自らが苦しめられるという「自発性パラドックス」(p.105)の特質を述べ,自ら進んでリスクを冒し,バルネラブルな状態にするという意味で,この性質を「バルネラビリティ」と呼んだ.
 また,現代は情報社会といわれるが,「希少性」や「所有権」といった点でこれまでの商品とは異なる情報(財)を,無理やり従来の経済システムの枠に押し込めようとしていることを指摘する.そして,著者は,ボランティアの議論を受けて,もうひとつの情報社会の可能性について論じている.情報社会の成立のためには,誰かが情報を提供しなければならないが,情報もそれを提供することによって人から攻撃されやすく傷つけられやすくなるという「バルネラビリティ」の性質をもつから,たいてい消極的になる.したがって,「「弱さの強さ」をもつバルネラビリティをどうサポートしてゆくかということが,「もうひとつの情報社会」を構築するにあたっての基本的な課題である」(p.211)と説いている.

●コメント
 本書は,ボランティア活動におけるつながりのプロセスを見ることによって,社会システムの一つの編成メカニズムを論じた.困難に直面する人の問題を自分のこととして捉え,勇気を出してつながりをつけ,自分もふさわしい場所を空けておくことで,誰かのつながりを受ける.社会システムの構造を役割のネットワークとして捉え,その役割期待によって個人の行為が規定されるとしたパーソンズの議論とは反対に,著者の描いた社会は,社会の中に自ら役割を見出して行動し,それによってバルネラブルな状況が生まれ,それに対して役割を見出した他者が行動を起こし,またバルネラブルな状況が生まれる,といったくり返しによってつくられる社会である.このように考えれば,情報社会は,情報を発信することによってつくりだされる社会に他ならないが,現在のインターネット環境においてみられる顧客同士によるソフトウェアのサポートや,様々な情報共有などの互恵的なプロセスは,まさにこうして生まれた社会システムであるといえよう.

林 幹人(2002年5月20日)