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林紘一郎,『ネットワーキング ― 情報社会の経済学』,NTT出版,1998年.
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| ●要旨 |
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環境が変化するなかで,プレーヤーは不断に変化していかなくてはならないから,ネットワークも絶えざる変化を要求されることになる.そして,ネットワークは「NET+Work(網が機能する)で完成されるのではなく,それが絶えず進行していく形のNET+Work+ingにならざるを得ないのである」(p.33)として,著者は,ネットワークを動態的なものとして捉えることの必要性を説く.本書は,「ネットワークの特質がしだいに変化していくダイナミズムと,そこに潜む新たな経済原理こそ,現在の経済現象をリードしている指導原理の1つなのではないか」(p.33)という問題意識のもとに,今日みられる現象のうち,ネットワークとして捉えられる事柄について,経済学的な視座から説明を加えようとするものである. 著者は「不確実性の経済学」の議論を踏まえて,要素還元主義の限界をはじめ,完全合理性の想定の問題,常態としての複数均衡,非合理な選択を内包しうる固定化や経路依存性につながる初期値(歴史的偶然)の重要性,収穫逓増の結果としての一人勝ち,といった従来の経済学では説明できない現象が散見されることを指摘する.そして,ネットワーク社会においては,ネットワーク外部性が,市場をめぐる諸活動に様々な影響を及ぼしているとする. ネットワーク外部性とは,他者の取引の結果が,当事者以外の第三者の取引にも影響を与えるというネットワーク製品に見られる外部効果を指す.このことは,需要の相互依存性に起因するクリティカル・マスや,ハード=ソフト・パラダイムといった現象となって現れる.そして,QWERTYキーボードの史実が語るように,ロックインの働きによって,偶然になされた初期の選択がたとえ非合理なものであっても,それ以後は道が決まってしまって他の選択肢は選べないという「経路依存」の現象も生じる.そして,これを解消するための方策として,相互接続による内部化が提唱され,それを実現する技術として互換性の確保と標準化,さらに制度や規則の利用が紹介される.また,プラットフォーム・ビジネスも相互接続によって内部化を実現するものといえよう. また,著者は,道路や鉄道,空港,電力,ガス,電話といった公益事業と呼ばれるものを,誰もが利用できるネットワーク産業と捉え直し,これについても言及する.これらは,市場における取引では望ましい資源配分が達成されえないという「市場の失敗」と呼ばれるものに該当するが,これらは,必ずしも規制によって保護されるべきではないという.つまり,サンク・コスト(転用不可能な固定費用)が小さい場合でも,市場への参入可能性があるならば,この市場はコンテスタブルな市場であると捉えることができるのである(コンテスタビリティの理論).
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| ●コメント |
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本書は,経済においてネットワークとして捉えられるものを広く扱うものである.特に,ネットワークの外部性に関する議論に割かれる部分は多く,インフォメーション経済における戦略のあり方を説いたシャピロ・バリアンの議論と同様,「ネットワークの外部性」を「内部化」することが指摘された.しかしながら,本書のまなざしは,単なる個別企業の戦略レベルを越えた,より広い社会に向けられているように思われる.公益事業に含まれるコンテスタブルな市場の存在の指摘はもとより,ネットワークの外部性を内部化するための相互接続は,より大きな社会レベルでの全体最適を目指すためのアプローチと見ることができよう.
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林 幹人(2002年6月17日)
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