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Coase, Ronald H. ,"The Firm, The Market, and The Law", The University of Chicago Press, 1988. (邦訳:宮澤健一・後藤晃・藤垣芳文訳『企業・市場 ・法』東洋経済新報社, 1992年)
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| ●要旨(第二章を中心に) |
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本書は、「市場利用の費用」という概念を用いて企業の本質を分析したもので、「資源は価格メカニズムという手段によって配分される」(p.42)という仮説と、「この配分は調整者である企業家に依存してなされる」(p.42)という仮説の間の経済理論におけるギャップを埋めることを目的とし、今までの経済理論のアプローチで欠落していた企業の定義を実現したものであり、後世の取引費用の経済分析の始祖となった。 Coaseは、企業の本質は「価格メカニズムにとって代わることにある」(p.42)として、企業の設立の理由を「価格メカニズムを利用するための費用」(p.44)を軽減するためであるとし、また、不確実性にともなう長期契約の不備や、制度的要因をあげている。市場におけるさまざまな取引においては、費用が発生する。Coaseは、「組織を形成し、資源の指示監督を、ある権限をもつ人(「企業家」)に与えることによって、市場利用の費用をなにほどか節約することができる。企業家がその機能を果たすにあたっては、企業家は自らがそれにとって代わった市場での取引よりは低い価格で生産要素を入手できるという点を考慮にいれると、より低い費用でその機能を果たさねばならない」(p.45)と述べ、取引費用からみた企業の存在理由を明らかにし、企業家の機能を重視している。彼は、企業家の機能を組織における取引の調整者と位置づけ、「企業の外部では、価格の変動が生産を方向づけ、それは市場における一連の交換取引を通じて調整される。企業の内部では、このような市場取引は排除され、交換取引をともなう複雑な市場構造に代わって、調整者としての企業家(entrepreneur)が生産を方向づける」(p.41)ものと考えた。 さらに、「企業は、企業家が追加的な取引(それは価格メカニズムを通じて調整される交換取引でもありえた)を組織化することにより大きくなり、あるいは、企業家がこのような取引の組織化を放棄することによって小さくなる」(p.47)と定義し、企業が拡大する条件として、 ・取引を組織化する費用が低く、組織化される取引の増加の費用の増加がゆるやかであること ・企業家の失敗の可能性が小さく、組織化される取引の失敗の増加が小さいこと ・規模の大きな企業に対する生産要素の供給価格の低下が大きいこと(あるいは上昇が小さいこと) を提示した(p.50を参照)。 それではなぜ市場取引は淘汰されず、また企業組織は巨大化して市場に単一独占化しないのであろうか。Coaseはその理由を、企業が大きくなるに伴い、企業家の機能に関して収穫逓減が働くことをあげ、追加的な取引の組織化における費用の増大と考えた。また、企業内の取引の増大によって企業家による生産要素の有効配置の失敗、生産要素の供給価格の上昇も原因とした。つまり、企業規模確定のためには、「市場利用の費用(すなわち、価格メカニズムを利用するための費用)、および他の企業家による組織化の費用」(p.56)を検討しなければならず、企業による生産物の種類や量はこの費用の分析で決定されるのである。
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| ●コメント |
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本書は、伝統的経済学の分析の対象である市場の他に、資源配分の調整システムとして企業組織があることに注目し、新古典派企業理論の出発点となったものである。彼のイメージする企業組織は、市場での取引費用が増大していくときに、その費用を節約するために企業家による組織内意思決定をする場として定義されている。彼の提唱した取引費用を中心とした企業の経済分析は、その後ウィリアムソンの「市場と企業組織」につながり、比較制度分析の幕開けともなった。昨今の情報技術の進展は、企業内のさまざまな取引費用を削減し、組織の内外とのコミュニケーションを容易にし、組織の境界設定が難しくなりつつある。彼の提唱した取引費用を中心とした企業組織の分析は、情報技術の発展にともなう企業組織の変化を分析する際の重要なキーワードになるだろう。
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| 文責: 飯盛義徳(2002年7月1日) |