Norbert Wiener, “The Human Use of Human Beings – Cybernetics and Society”, Houghton Mifflin & Co., U.S.A., 1950

(鎮目恭夫・池原止戈夫(訳),『人間機械論』,みすず書房,1979年.)

●要旨とコメント

本書は、筆者自身によって1948年に発表された「サイバネティックス」の思想をさらに発展させ、科学、言語、コミュニケーション、法、そして社会などとのかかわりで検討したものである。

ウィーナーによると、「サイバネティックス」とは「動物と機械の情報伝達と制御の理論」である。そして、「制御」という働きによって、外部環境のエントロピーに対して人間などの生物がホメオスタシス(恒常性)を実現すると述べている(p.99)。この際に、環境とのフィードバックにおいて重要な働きをもつものが「情報」という概念であり、自然界を構成する物質やエネルギーとは異なる要素の発見となる。(「サイバネティックス」の概念は、後のベルタランフィにより有機生命体のエントロピーに対する開放性の着目から、「一般システム理論」へと発展する。)

ウィーナーは本書の主題について、「社会とは通報および通信機関の研究を通じて理解出来、それらが発達するにつれて人と機械また機械と機械との間の通報が大きな役割を演じる」と主張している(p.10)。

情報理論に大きな影響を与えたシャノンによれば、情報は「不確実性を減らすもの」であり、この立場から情報を通信における側面から工学的に分析した。しかし、ウィーナーは本書において、情報を意味的、質的というような哲学的、社会学的側面から分析し、人間の社会における「サイバネティックス」的側面の設計を批評的に展開した。

それらの論点は、本書において例えば、学習(p.86)、意味(p.96, p.115)、関係(p180)、創造性(p.137)、そして秩序(p.22)への記述に特徴付けられている。そして、その背景には、ウィーナー自身の「アウグスティヌス」的世界への宗教的態度(p.22)があった。そして、それを基盤とする「自由・平等・対等」への信念があったのである。

 

論点:コミュニケーション理論における位置付け

シャノンのコミュニケーション理論と異なる点は、シャノンの通信モデルは一方通行のコミュニケーションにおける情報伝達を対象としたが、ウィーナーのサイバネティックスでは、時間的経過の中で自己修正を行う適応システムにおける情報の流れに着目していることである。すなわち、双方向の情報交換と相互に意味を生成するプロセスという概念を内包するものである。シャノンのモデルはテレビなどを中心としたマス・メディアのコミュニケーション効果や宣伝効果への基礎にはなりえるが、今日のインタラクション、ネットワークなどのコミュニケーションにおいては現実的なモデルにはなりえない。今日、ウィーナーのフィードバック、関係、そして創造などの論点は今日の双方的なコミュニケーションにおいても重要な示唆を含む。

論点:コミュニケーションと知識

「生きているということは外界からの影響と外界に対する働きかけとの絶えざる流れのなかに参加している(中略)。われわれは過渡期的段階にあるにすぎない(中略)。知識とその自由な交換の絶えざる発展の中に参加していることを意味する」。

 

参照:コミュニケーションの健全性(p.136)、情報の利用とコントロール(p.127)、言語とゲーム(p.94)、情報と進歩(p.46)。

 

服部基宏 (2002年5月13日)