|
Garrett
Hardin, 1968, "The
Tragedy of the Commons", Science, 162: 1243-1248. |
|
●要旨とコメント |
|
本論文は生物学者ハーディンが1986年に「サイエンス」誌に発表したものである。 ハーディンは、人々が限られた資源を共有し、そして、人々が合理的ならば、共有資源の持続可能性は失われてしまうことを主張し、これを「共有地の悲劇(The Tragedy of the Commons)」と呼んだ。ハーディンは「羊飼いと共有された牧草地」の思考実験を通して次のような「共有地の悲劇」モデルを提示した。 羊飼いたちに共有されたある牧草地を考える。個々の羊飼いは自由に飼育する羊の数を決めることが出来る。しかし、牧草地が供給できる草の量は限られているため羊の飼育可能量は決まっている。ここで、羊飼いたちは経済合理的な者であるとすると、彼らはより多くの利益を得ようとして自分が飼育する羊を増やそうとする。なぜなら、羊一頭を増やすことにより自分の利益は増加するが、それによる牧草地の損失は参加者全員が負担することになるからである。そして、牧草地の草の許容量を超えても羊は増え続け、牧草地の草はなくなってしまう。その結果、全ての羊飼いは生きる糧を全て失う 彼がここで最も強調するケースは人口問題であったが、同様の問題として、環境汚染や海洋での漁獲の例を挙げている。さらに、「共有地の悲劇」の解決は「自制」、「技術」や「良心への訴え」では実現不可能とし、「その影響を受ける人々の大多数が相互に合意する相互的な強制(mutual coercion)」によって「自由(ないしは公有地)」を放棄する」ことを通じて可能であると主張する。 ハーディンの人口問題の警告によって明らかになったことは、システムのリソースが物理的に有限であり、その参加者が利己的かつ(経済的に)合理的に行動する場合には、長期的にはそのシステムは維持不可能である、というひとつのモデルであった。当時、人口問題や環境破壊が国際的なイシューとして着目されているさなかであり、また、特に都市部においては社会移動やメディアの発達により共同体の規範の弱体化が指摘されていた社会的状況にも関連したホットな論点であった。彼によるこの警告は、「共有地の悲劇」モデルに対抗するようなシステム維持を(誰が)どのような方法で行なうかという問題を提起し、経済、政治、社会、環境などに関連する研究に大きな問題を投げかけたといえる。 経済学では外部性と市場の失敗、また情報の所有の論点などとして取り上げられ、政治や社会学においては正義の問題、コミュニティ(ないしはアソシエーション)や文化・規範の問題として議論がなされた。また、昨今ではインターネットと共有地という観点からその空間の意義や権力、また規範のありかたに至るまで様々な議論がなされている。 「共有地の悲劇」モデルは、現実にはそうならない事例が多数見られるという批評もあるが、単純化された特定の状況下における「共有地」の振る舞いを示すことによって、多様な論点の出発点になるという貢献を果たしたと言える。 |
|
服部基宏 (2002年9月1日) |