Farrell, Joseph and Saloner, Garth, "Standardization, Compatibility, and Innovation," Rand Journal of Economics, Vol. 16, No. 1, 1985.

●要旨
 「多くの製品は,異なる製造業者が,論理的な必要性以上に相互変換可能性を提供するという意味において「互換性」があるあるいは「標準化」がなされている」.それは,「製品の標準化は,顧客にとっても,企業にとっても,しばしば利益が存在する」からである.
 FarrellとSalonerは,顧客にとっての標準化の利益として,他の人が使っていることで自らの使用価値が拡大するというネットワーク外部性や,より豊かな中古市場ができること,互換性によって売り手の間の価格競争が促進されることなどをあげる.また,生産者の利益としても,顧客にとっての利益のうち価格競争が促進されることを除いた全てが,自らの製品に互換性を持たせるためのインセンティブとなりうること,また,インプットの規模の経済性によって,より安くインプットを獲得できることをあげた.
 しかしながら,FarrellとSalonerは,「他の消費者の製品と「互換性」があるときに,消費者の価値はより高くなる」として標準化や互換性の有効性を認めながらも,「互換性を持つことで,競争相手の製品に対する消費者の価値を増加させてしまい,市場シェアにおける実質的な減少を被るだろうから,支配的企業は,ライバルと非互換のままにすることを選ぶかもしれない」というKatzとShapiro(1983)の主張を引用して,標準化あるいは互換性が,問題を含みうることを指摘し,「標準化は重要な社会的利益を持つが...同様に,重大な社会的コストをも持ちうる」と述べている.
 そして,本論において標準化の問題として強調されるのが,「過剰慣性」(excess inertia)と「過剰転移」(excess momentum)である.過剰慣性とは,いったん普及してしまった標準は,より優れた新しい標準又は技術へと移行することを妨げることを意味し,過剰転移とは,いったん標準化がなされたならば,技術が最適なものでなくても,意図せず極端に移行する傾向があるということを意味する.FarrellとSalonerは,不完全情報の状況下において,常に過剰慣性が存在することを示した.
 また,過剰慣性は,不完全情報下における調整の問題と考えることができるため,企業間のコミュニケーションが,慣性を除去することが期待される.しかしながら,FarrellとSalonerは,過剰慣性を,「対称的な慣性」(symmetric inertia)と,「非対称な慣性」(asymmetric inertia)という2つのタイプに区別し,コミュニケーションが,対称的な過剰慣性を除去する一方で,非対称な過剰慣性の問題を悪化させることを示した.

●コメント
 本論の要点は,標準化や互換性による外部効果には過剰慣性の問題が含まれること,また,この効果をコントロールすることは容易ではないということにある.このことから,単なる標準化が,必ずしも利益をもたらさないことは容易に推察できよう.特に,発展途上にある技術革新の余地が多い製品に関しては,標準化は,技術の多様性を許容せず,イノベーションの普及を阻害するために,長期的な視点からの社会的利益を減少させる可能性があると考えられる.また,標準化されたあとに,より優れた技術を普及させるためには,長期にわたって多大な投資を続けなくてはならない可能性があり,技術力はあるものの資金的なパワーを持たないような新規あるいは中小の企業が参入する機会が失われることも考えられる.

林 幹人(2002年9月30日)