Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods", Sage Publications, 2002..

3章―第4

 

<要旨>

【第3章】        ケーススタディの実践:データ収集の準備

本章では、前半でresearcher(調査者)として望ましいスキルを、後半でデータ収集の準備の具体的な進め方を述べている。

ケーススタディのデータ収集は、実際の現場から分析に耐える信頼性の高いデータを収集することが求められるため、調査者(チーム)には高いスキル(うまく質問する力、聞く力、適応能力と臨機応変さ、データを解釈する力、先入観や偏見がないこと)が要求される。とくにチームでの調査や複数ケースが絡む場合は、質の高い調査のために集中的な訓練が必要だ。

データ収集の準備としては、調査者教育、プロトコル設計、対象ケースの選抜、パイロットスタディを行う必要がある。Yinは、なかでも、ケーススタディの総合的な信頼性を担保する要としてプロトコル設計を重視している。プロトコルは、個々のデータ収集現場で調査員の拠り所となる規範・手順・心構えであり、最終的なレポートに画一性がなく、時として調査設計の柔軟な改変も必要となるケーススタディでは、常に研究目的と成果物を意識して調査を進める必要があるからだ。

また、本章で提示される調査員教育の雛形プログラムも、実践的であり参考となる資料である。これは、調査者(チーム)が研究目的を共有し、収集すべきデータを理解したうえで、プロトコルに基づいて効率よくデータを収集するために不可欠なものだ。

 

【第4章】        ケーススタディの実践:論拠の収集

 本章では、まず、ケーススタディの論理性を支える6つの証拠源、文献(document)、資料(archival records)、インタビュー、直接観察(direct observation)、参与観察(participant-observation)、現物(physical artifacts)について、それぞれの強み・弱みが提示される(図4.1)。これら証拠源は、それぞれに異なる方法論的手順に従った収集が必要となる。

次に、いずれの証拠源においても本質的な次の3つの原則が述べられる。

@          複数の証拠源を使う: 最大の効果は「証拠の融合(Convergence of evidence)」。4つの三角測量的手法(Triangulation)として、データソース、観察者、理論、方法論、それぞれで複数を用いることの重要性を説くPattonを引用している。

A          ケーススタディデータベースをつくる: 最終的なケースレポートとは異なる証拠の集合体。他者も検索できるようにする。データ系と論文系の2つが必要。

B          論拠のつながりを管理する: 証拠に裏打ちされた論理展開により信頼性を担保するため、クエスチョン − データ − 結論を、きちんと関連付け、誰でもどちらの方向からでも辿れるようにする。

 

<コメント>

3章、第4章は、データ収集にあたって研究者として取るべき基本的なアプローチがかかれている。ケーススタディを実践するにあたり、例えばチームで調査を行う場合の教育コースのアジェンダなど、具体的な提示がなされている点は参考になるだろう。実際のケース調査では、ケース候補が選ぶほどない、希望する相手がインタビューに応じてくれるとは限らない、全ての資料をデータベース化している時間がない、など様々な制約があり、教科書どおりやることは難しい。

企業や行政機関を対象に研究する場合、ケーススタディデータベースや研究レポートの公開が、組織の戦略、内部事情を暴露し、競争優位や信頼性をおびやかす可能性があり、ケーススタディの公開可否がクリティカルになる。このような場合の交渉策等がかかれていれば、非常に参考になると思われるが、そのような点に関する言及はとくにされていなかった。(小川美香子2003/10/09