Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods", Sage Publications, 2002..
第1章―第2章
<要旨>
【第1章】 イントロダクション
本書は、実験(experiment)、社会調査(survey)、歴史研究(history)、資料分析(archival analysis)などと同様に、ケーススタディが社会科学のリサーチ戦略として妥当であることを示すケーススタディの研究方法論である。本書におけるケーススタディの定義は(pp.13-14)、
(1)現代の事象を現実の文脈の中で研究する実証的手法。事象と文脈が明確でない場合に適する。
(2)関心のある変数がデータポイントより多いような物理的に特殊な状況を扱う
(ア) そのひとつの結果として、三角測量的(triangulation)な手法で収斂させることが必要なデータを含む、複数の証拠源に依拠する
(イ) もうひとつの結果として、データ収集と分析の指針として、既に開発されている理論命題から便益を受ける。
研究手法にはそれぞれ長短があり、次の条件が揃った場合にケーススタディが適する。(A)リサーチクエスチョンのタイプ(4W1H):how/why、(B)研究者による変数制御:困難、(C)歴史的事実か現代の事象か:現代。
ケーススタディは、事象から理論を抽出することを目的とする点は他の社会科学の研究手法と変わらない。特徴としては、論拠として文献、作品、インタビュー、観察内容のすべてを扱える点、ケーススタディにおける一般化とは、統計的一般化ではなく分析的一般化を指す点があげられる。設計・実施にあたって細心の注意を払うことが、ケーススタディに対し向けられがちな、厳密性、一般化の妥当性などの批判に対する最善策である。
【第2章】 ケーススタディの設計
リサーチ設計とは、リサーチクエスチョンと、結論とを結びつける理論的枠組みであり、研究の過程で研究者の指針となる。ケーススタディにおける理論的枠組みは、リサーチ設計の段階で構築され、それに沿ってデータ収集や分析をするために用いられるが、研究の経過次第で、リサーチ設計を見直す柔軟性を持つことも必要だ。また、最終的に重要なのは、研究結果からその理論をより一般化することである。
リサーチ設計の要素は、(1)問題意識、(2)命題、(3)分析単位、(4)データと命題を関連付ける理論、(5)知見を解釈する基準である。多くの研究者が混乱するのは分析単位の設定であり、この段階を克服する方法は、自分の問題意識や特定のケースを選択した理由について他者と議論すること、および、先行文献の研究である。
リサーチ設計の質を高める指標は、(A)構造的妥当性−複数根拠に依拠、情報提供者のレビュー実施等、客観性を保つためのルール設定、(B)内的妥当性−理論的枠組みを構築する際の因果関係の妥当性、(C)外的妥当性−他のケースでも再現性のある理論構築、(D)信頼性―誰でも同じ結果が得られる手続き妥当性、の4項目である。
ケーススタディの設計は2×2のマトリックスで4分類される。縦軸は単一ケースか複数ケースか、横軸は分析単位が包括型か複数埋め込み型かで分類される。望ましいのは、理論の一般化において反駁余地の少ない複数ケースだ。
<コメント>
学術論文に投稿する立場から:組織科学、経営情報学会誌に、ここ2−3年に掲載されたケース論文は、大半が萌芽的事象を対象とするシングルケースだった。両学術誌とも、採択論文の評価の観点は、基本的な論文構成、理論の完成度(文献調査と仮説導出のブリッジ具合および結論での一般化度合い)、収集データの量とデータ分析手法の妥当性であるように思われる。インが2章で指摘するリサーチ設計の品質四指標という観点では、(B)内的妥当性と(D)信頼性に該当する。残る2つ、(A)構造的妥当性と(C)外的妥当性は、採択基準からは外さざるを得ない指標だと思われる。なぜなら、”operational measure”(研究を実施する際のルール)は査読者には判定しようがなく(1)、萌芽的事象では再現性が検証されていないからだ(3)。我々のように経営の文脈で萌芽的事象を研究する場合、(3)を論証することが一番の壁となると思われる。例えば、医療におけるカルテ共有、SCMにおけるRFID実証実験、ネットコミュニティの収益モデルなどは、非常に再現性が乏しい。萌芽的事象を対象とする場合、論文採択基準には、ケースの特異性(面白さ)、およびそのような事象に着目した問題意識の独自性が評価に加わるのではないか。(小川美香子2003/10/2)