Clark, Kim B., "The interaction of design hierarchies and market concepts in technological evolution", Research Policy, Vol.14, No.5,1985, pp.235-251.
<要旨>
本書で著者は理論フレームワークとして、需要と技術の不確実性を伴うプロセスから、イノベーションのパターンが形成されるという主張を展開する。すなわち、製品デザイン(における問題解決の論理)と、消費者の選択(製品コンセプトの形成)が、技術の進歩における階層的な構造をいやおうなく作っていることを主張する。この主張の妥当性を示すために、米国の自動車の事例を中心に、半導体の事例も交えながら本論が展開される。
理論構築の基盤となる先行研究はふたつ。まず、製品とプロセスに関するアバナシーの「A-Uモデル」である。これは、”Fluid”段階では製品が多品種、マーケットニーズは不明確、プロセスも柔軟性が高く熟練工依存となるが、”Specific”段階に進むと製品の標準化が行われ、需要も明確に、プロセスは統合され機械化が進行する、というもの。ClarkはAUモデルで述べられたイノベーションを伴う製品開発は、需要と技術の不確実性を予見していると位置づけている。もうひとつが、Nelson and Winterによる「代替技術の存在と新しい情報の探索による不確実性がイノベーションのプロセスにおいて果たす役割が大きい」という主張である。
著者の主張は次の通り。技術には相互依存性があるため、一部の製品デザインに変更があると別の部分にも変更が派生する。製品を部品・機能で分解すると、階層構造となっており、設計変更は階層構造のなかでトップダウンもしくはボトムアップ的に派生していく。製品イノベーションは、小さな進歩が続いたあとで、大きな進歩というパターンを持つ。製品イノベーションは常に起こっているのではなく、業界や製品ごとに特定のパターンが存在する。 製品イノベーションは消費者ニーズのフィードバックを受け、また消費者ニーズは製品イノベーションのフィードバックを受ける。 新製品の場合、消費者は製品に関する予備知識がないため、機知の概念マップのなかで類似する製品のそばに新製品を位置づける。この情報処理は階層的に行われる。概念マップの整理に用いられるのは、「グルーピング」と「差異化」である。 プロセス開発には、製品自体はそのままで、組織的・プロセス統合的に実現される場合と、プロセス刷新によって製品属性をかえる場合とがある。いずれの場合も、規模の拡大、製造スピードの向上、コスト削減によって、消費者の概念マップにおける製品マップにおける製品イメージを好意的な方向に強化することが、プロセス開発のインセンティブとなる。消費者の概念マップは、ひとたび形成されるとそれは恒常性を持つため、プロセス開発は企業の競争優位となる。
<論点>
Clarkの階層構造であるとする主張は、大量生産、大量消費の物質的な製品を前提としているが、現在、あるいはこれからの時代でも通用するか。
・ 例えば、少量で高付加価値の製品を提供する場合、消費者の概念マップにあらかじめその製品イメージを作り上げる、あるいはそれを強化するためのコスト削減はその製品を販売する企業(あるいは個人)の競争優位とはならない。
・ 例えば、デジタルコンテンツ、あるいはエンターテイメント産業のように物理的な製品ではないモノ・サービスを販売する企業では、消費者同士の動的なかかわり、消費者とサービス提供者の一期一会の関係性の中で価値が生まれるので、Clarkの論の適用はできない。