Hughes, T., ‘The Evolution of Large Technological Systems’, Bijker, W., Hughes, T. and Pinch T. (editors), "The Social Construction of Technological Systems.", MIT Press., 1987, pp.51-82.
<要旨>
本稿は、1870〜1940年の電力の歴史を分析することで、大規模な技術システムの進化パターンと中心的役割を果たした人間(エジソン)を、Social Constructionistの立場から分析した、技術社会学・歴史学者のトマス・ヒューズによる論文である。
ヒューズのいう「技術システム(Technological Systems)」は、「社会的に構築され、また社会によって形成されているもの」であり、「複雑に散らばった問題解決を行うもので構成される総体」と定義される。人工物や情報・知識だけを指すのではなく、個人・組織、あらゆる商業システム、金融、教育システムなどをも包括するもので、自然システムに対置される概念である。
ヒューズよる、技術システムの特徴は次の通り。
@ 技術システムを構成する要素には、タービン発電機、変圧器等の物理的な人工物と、組織や法制度などの非物理的な人工物とがある。これら人工物は相互に作用しあい、共通のシステム目標に向かって直接的/間接的にシステムの要素として機能する。
A ひとつの人工物がシステムから取り除かれた場合、もしくは特徴に変更があった場合は、他の人工物もそれに伴って変化する。
B それらの要素は複数のシステムビルダーによって発明・開発されたものであるために、社会的な構造をもつ人工物である。
C 相互作用するため、各要素の機能・特徴がシステム自体に由来する。
D 組織がシステムビルダーの生産物、即ち技術システムに含まれる人工物であるために、環境(コンテクスト)としてその技術システムに影響を与える社会的要因である、との考えは誤りだ。これは、技術の背景として社会環境が言及されるようになったために出てきた議論だが、システム的にコントロールできる要素ならば、それは社会環境ではない。
E 長年、技術システムは不確実性に対処するため、環境をシステムに取り込む傾向にあった。技術システムは、閉じたものからオープン技術システムへと変遷してきた。
F 技術システムは問題解決システムである。課題は現実世界を並べ替える。
G 技術システムは、人工物と人間のオペレータによって実践されるコントロールの限界を有する。
H 人間はシステムの要素ではあるが人工物ではない。
I 人間が階層構造を好むため、システムは長らく階層構造を持つ傾向にあった。
J 技術システムはインプットとアウトプットを持つ。
次に、ヒューズは、技術システムの進化のパターンとして、発明(Invention)、発達(Development)、革新(Innovation)、技術移転(Technological Transfer)、成長、競争、統合(Growth, Competition, and Consolidation)というフェーズを提示した。このフェーズは一方向に進行するのではなく、いったりきたりも起こりうる。進化の過程で、システムが成熟するに伴い、「スタイル」と「モメンタム(弾み)」を獲得する。また、各フェーズでは中心となる人間が異なり、発明家型アントレプレナー、管理者型アントレプレナー、財務家型アントレプレナーがいる。
<コメント>
シングルケースのため一般化に弱さがあるともいえるが、時間的系譜があるのでYinのいう単一ケースでも許容されるパターンのケース論文といえる。
ヒューズの表現した“大規模な”システム以上に、現代は業界、国境を越えた統合システムへと向かい、システム相互の依存性がより高まりつつある。本稿は階層的な中央集中システムが前提となっているが、現代はそれでは対応しきれないという背景から、分散処理的なシステムへ、さらに細分化されたミクロ処理/動的処理へと移行しつつある。システムと環境とのフィードバックループがより緊密になっている。現代よりさらに技術が進んでも、人工物とそうではない環境との境界は存在し続けるのだろうか。
(小川美香子 2003/11/5)