吉川内藤耕編著、『第2種基礎研究−実用化につながる研究開発の新しい考え方』、日経BP社、2003年.

 

[要旨]

本稿は第2種基礎研究と呼ばれる領域の研究の必要性を主張するものである。科学技術基礎研究において,研究者は社会的契約の履行者として存在しており,研究成果を社会に戻す(契約履行,製品化)には,第2種基礎研究の突破が必然となる,というのが具体的なメッセージである。

筆者はまず研究成果としての一般化製品を整理する。研究の製品とは,研究成果が社会の中で価値になったものである。「目にも見えず,市場もない」リスクマネジメント等を例にひき,科学者にとっての製品とは見えやすく評価されやすいものだけでないことを強調する。製品にもっていくためには,こうした見えにくい人間の知的な努力が必要であり,こうしたものが第2種基礎研究であるとする。

次に,イノベーションのプロセスの進行(夢の時代から工業化・実現へと向かう)と研究投資(人々の関心の高まりと失われ具合)の関連性において,周囲から非難忘却される時代を「悪夢の時代」と名付けて,その原因を探る。筆者は,その本質的な原因を科学的方法の非対称性(分析的科学と合成的科学)に見出し,事実知識と使用知識が合体していた土着知識が,ギリシャ以来の文明で切り離され,前者が自然科学に,後者が社会科学に対応する傾向が強いと説明する。 社会科学が必要な機能を果たせていない現状において,未成熟な使用知識を体系的に研究すること(第2種基礎研究)の重要性を主張する。

 最後に,ニュートン力学というひとつの領域を例に,第2種基礎研究の論理的構造について説明し,2つ以上の領域を合体させることの難しさに言及している。そこでは,力学3法則がどのように導き出されたのかを説明するアブダクション(遡源推論)という概念が紹介され,学問領域が満たすべき3つの条件(観察,コレクション,部分集合系)について整理されている。

 

[コメント]

社会的契約の履行者としての研究者の存在意義を確認できる。現在アメリカでは、例えば研究の「質」の「低下」など、企業の成果に貢献する研究が進むところで起きる問題が広く認識され、産学連携のあり方とその社会的効果が問われ始めている。日本においても今後産学連携に関する議論が高まることが予想されるなか、大学が果たすべき第1種基礎研究と産業の橋渡しをする存在として第2種基礎研究を位置づけて、産学連携に向けてその必要性を説明する本稿の主張は興味深い。これらが結びついてひとつの研究ユニットを構成する(筆者がいうところの「本格研究」)ことの意義から、「悪夢の時代」の投資の必要性を訴える点や、2種基礎研究の困難さについて、論理・推論に関する概念を扱いながら説明される点に説得力がある。

 

以上(2004531日 坂井健太郎)