吉川弘之、内藤耕編著、『第2種基礎研究』、日経BP社、2003  

1章 研究開発における社会的契約(吉川)                             


【要旨】

持続可能な開発の実現にとって、科学的知識に依拠した新しい方法、技術による産業的実現が不可欠であるが、その実現の速度が、迫り来る脅威の増大速度に追い越されるという危機感から、基礎研究と活発な製品開発の間の壁を取り払い、製品化につながるための多様な知識の集積、合成を行なおうという試みが始まった。これをシステマチックにすすめようという提案が、本書のタイトルでもある「第二種基礎研究」である。本書は従来「応用研究」と呼ばれていた過程に光を当て、 システマチックに考え直すことで「第二種基礎研究」と定義し、 そこでいったい何を行うのかを明らかにするものである。

本書は、2部構成で、第1部は新しい研究方法、第2部は研究マネージメントと具体例である。

1章「研究開発における社会的契約」で吉川は、地球上におけるすべての科学者は社会的契約の履行者として存在しており、いまや、社会の側が、科学者に対し、環境の変化の中で、第2種基礎研究を含んだ本格研究による契約の履行を求めていると捉える。

そもそも、従来型の基礎研究 (第一種基礎研究)が分析的であり論文が書きやすく研究者の業績になりやすいのに対し、第二種基礎研究は論文になりにくく研究者の業績にならず、 研究者も積極的に取り組まない傾向があった。これは、科学的方法の非対称性に起因することが示される。

これまで、新しい発見や発明が出てきても、それが実際に工業化実現にいたるまでに「悪夢の時間」といわれる多くの時間経過を必要としてきたが、それが、持続可能な開発の実現を困難にしている。その解決が第2種基礎研究だと説く。

しかし、第2種基礎研究というのは、第1種基礎研究と違って、複数の領域を扱うのであるが、これが研究者にとって理論上の困難を投げかける。そこには、研究における論理構造の差がある。しかし、著者は、領域の合体、合成が難しいとしても、その背景には必ずシステムが存在しているはずで、その困難の特性を開明しつつ体系的なものにすることによって、第2種基礎研究を体系的なものとすることが、今後の研究の基本課題だと指摘するのである。

 

 

【コメント】従来の基礎科学と応用科学の2本立てでは、人類の迫り来る危機を回避する持続可能な開発の効率を高めることができない、との問題意識は、人工物の設計思想と連動する現代の科学技術の本質問題であるようだ。

織田勝也(20045月31日)