吉川弘之・冨山哲男、『設計学−ものづくりの理論』、放送大学教材、2000年.

2004531日 佐々木裕一

 

設計とはどのような人工物を作り出すかを考案、指示する過程のことである。筆者はここでいう人工物を「住宅や建設物、機械、電子回路、金属材料、合成化学物質などの物理的存在だけでなく例えば計算機ソフトウェアのような抽象的存在、あるいは社会システムのような制度的なものも含まれる」としており、このような人工物を想定した上で設計学の重要性を強調する。すなわち、特定の人工物(例えば自動車のエンジン)に関する個別具体の設計方法を学ぶだけではなく、それを他の人工物の設計方法へと一般化すること、また設計という行為自身の抽象度を上げてその本質を理解することが重要という主張である。この一般かつ抽象の領域が設計学の領域となるのである。

ただし、本書では物理的存在である工業製品を主としてその後の論は進められる。その中で特に筆者が重視するのは、製品には使用者がいるという点と製品の製造のみならずライフサイクルを規定することの必要性である。その観点から、「使用者あるいは市場の要求を満足するために、製品及び製品ライフサイクル全体に関わる全情報を段階的に詳細化しながら決定していく課程」と設計を再定義している。

中盤以降では、設計に必要な情報を扱うための道具として設計図面やモデルが、また設計方法論として要求機能の分析、機能分解、機能担体(部分解)の発見、部分解を合成して全体の解を生成(実体化)といったプロセスが説明される。また設計図面やモデルを効率的に扱う手段としての設計支援システムについても説明されている。

 

 

     論点・コメント

     工業製品の設計に携わる人向けに書かれた教科書ということで、伝えたいメッセージが多岐におよび、主張がわかりにくい本である。上記要約もうまく表現できていない。

     強いてメイン・メッセージを挙げるなら、「設計という人間の高度な知的活動はますますその重要性を高めている」ということなのだろうか。

     「人工物には社会システムのような制度的なものも含まれる」というくだりと、一般かつ抽象の領域にある設計学の重要性を主張している部分には、文科系の立場から制度設計にかかわるものとして期待を感じた。だが、結局のところ、本書で人工物として取り上げられているものは工業製品であり、また設計についての定義もさほど斬新なものでもなく、中途半端な印象だけが残った。

     で、結局のところ設計とは何なの?

     特に社会制度という人工物に対する設計方法論にはどのような特徴があり、設計対象物を人工物すべてというところまで広げると工業製品の設計とその定義はどのように変わってくるの?(少なくともこの本から得られる示唆はなかったが、どうなんでしょう)