吉川弘之、富山哲男、『設計学−ものづくりの理論』、放送大学教材、2000年.

 

[要旨]

本書の主眼は,現代文明を築き産業活動における中心的な創造行為としての設計を理解することである。設計とは,人工物の生産を通じて社会を築いていく作業に他ならず,今後人類あるいは我々の文明を維持し,発展させていくために極めてクリティカルな行為である。設計を理解するには,設計を対象に依存せずに抽象的かつ対象領域を越えて一般的に扱う,設計に関わる知見を体系化した設計学が重要であるというのが基本的なメッセージとなっている。

<一般設計学>

人間が創造能力によって創り出した,元々は自然に存在しないものが人工物であり,この創造の過程のうち,どのような人工物を作り出すかを考察,指示する過程が設計である。設計学は,機械設計・建築設計・電子回路設計などの分野の違いを超えて共通に存在する設計の特質を,抽象的にかつ,一般に取り扱う方法である。筆者は人工物設計の歴史や人工物の進化,さまざまな設計について説明した後,一般設計学について説明する。これは設計学の中でも設計に関する一般的知見を得ることを目標とするもので,抽象概念を操作して新しい人工物を創造する人間がもつ設計知識を,公理論的な集合論(位相空間論)としてモデル化することを基本的アイデアとしている。設計とは,この位相を操作して新しい概念を作っていくことに相当する。まず問題の定式化に際して,設計,実体集合,属性,機能(顕在機能と潜在機能)について定義を行い,一般設計学の基本3公理(認識公理・存在物と概念との対応公理・概念に関する位相公理または概念の操作公理)を挙げている。次に,理想的知識での設計に関する考察(6定理の成立)を行なった後,不完全性(実体概念・実体分類・操作上・分析)・有限性(記憶量・思考速度)を導入した広義の現実的知識での設計に関する考察(3公理の否定,2定理の成立)を行なっている。ここで筆者は,広義の現実的知識では数学的に厳密な議論が不可能となることから,ある程度の理想性を保存しながら現実を説明するための制限を付加する狭義の現実的知識での設計の考察を行なっている。そこでは3公理が認められる代わりに,実体概念集合の範囲が限定されている。また,現実的知識を計算で扱う可能性についても最後に触れている。

<設計における推論(アブダクション)>

一般設計学では,その操作が集合論的な操作に限定されるため,筆者は設計における人間の思考様式としての推論を精緻化するために論理的な知識操作体系を導入する。そこでは,設計の本質は推論の様式としては演繹や帰納とは異なるアブダクションであるとするが,アブダクションは解の一意性を保証するわけでもなく,また正しい解であることも保証できないという意味で,推論としては演繹に比して弱い点について言及している。さらに,アナリシス(解析,分析:実体からその機能,属性,性能を明らかにする作業)とシンセシス(総合:要求された機能,属性,性能を満足する実体を求める作業)は逆とみなす(シンセシス≠逆アナリシス)のではなく補完的と捉えるべきで,この両者においてアブダクションが重要な役割を果たしていることが説明されている。

 

[コメント]

本稿で主張される設計の本質を理解するには論理学の基礎的知識が必要となる。特に推論の形態のなかで着目されるアブダクションについて、演繹や帰納との比較を通じて理解することは、仮定の構築・検証にとって重要である。(2004531日 坂井 健太郎)