吉川弘之、富山哲男、『設計学−ものづくりの理論』、放送大学教材、2000
2004.5.31 折田明子
要旨
設計とは、人間に備わる普遍的な能力である。設計は、人工物を作り出す人間の創造行為であり、人工物によって人間は要求を実現する。設計過程には、2つの役割がある。生産者と使用者をつなぐ役割とり、また人工物の製造に不可欠な情報を生成する役割だ。設計に関する学問体系は、個別・一般および具体・抽象の軸で分類される。
本書では、科学と技術の歴史的関係を示し、人工物の進化における失敗例を挙げながら、これまでの経緯を説明している。
続いて、工業製品をもとに詳細を説明している。工業製品のコンセプト誕生から設計・生産・使用・廃棄を経る製品ライフサイクルにおいて、設計は後の段階で利用される情報全てを決定している(例:設計図を元にした製造)。設計とは、人工物のライフサイクル全体でのあるべき姿に関わる情報を決定するとも言うことができる。設計過程には4つの段階がある。概念設計では、市場要求や販売形態、リサイクルに至るまでの情報が決定される。基本設計では、概念設計で作成された基本図をもとに細部を決定する。詳細設計では、部品展開を行い、部品を設計する。生産設計では、加工図や加工工程図、組立工程図を作成する。設計の初期段階でやり直しをしてもコストはほとんど掛からないが、終了段階に近くなると手戻りによる変更コストが膨大になる。そのため、実際には各段階をなるべく並列化するコンカレント・エンジニアリングが採用される。
人工物の設計は、要求・仕様・属性・状態・挙動・機能の情報を、詳細化しながら決定していく過程である。これらの情報を表現したものを、モデルと呼ぶ。モデルには、内包的なモデルと実体モデルがある。設計図面もその一つだ。設計は要求を満たすだけでなく、コストや安全性などを同時に満たす解を求めるため、トレードオフが出現する。
設計学の理論体系は、設計対象物に関する知識と、設計過程に関する知識の2つに分類される。様式や専門知識を超えて抽象的かつ一般的に設計を扱うのが、一般設計学である。一般設計学は、設計知識を公理論的な集合論としてモデル化することを基本とする。人間は認識と分類から知識を得、その過程で抽象的な特性として概念を形成するが、さらに抽象概念だけで実体を考えることを始めたとしている。このことが、現実に存在しない人工物の創造につながっている。設計における推論では、アブダクション(仮説生成)が重要な役割を果たしている。人工物に関する記述を事実として書けば、その人工物の性質は、公理系と事実から導出される定理群とみなされる。
環境問題やライフサイクル全体を考慮した設計が今後求められる。また、PLのために設計過程の標準化やドキュメント化などが必要となった。
コメント
設計原理の紹介が興味深かった。中でも「簡単なものほど優れている」という言葉については、構造の美しさ、単純さを持ちながら機能を果たすシンプルなものがあれば、それは設計においても製造・実装においても扱いやすいのだろうな、と思う。特に手戻りコストが削減できるのではないか。
設計以降のライフサイクルはすべて、設計に依拠するという意味で、設計の意味は大きい。単に品質と生産コストだけでなく、廃棄やリサイクル、地球全体の環境という視点が加わるにつれ、設計の社会的な影響は強くなるのではないだろうか。