吉川弘之、富山哲男、『設計学−ものづくりの理論』、放送大学教材、2000                               


【要旨】

本書は、現代文明を築き産業活動における中心的な創造行為としての設計をトータルに理解することを主眼に書かれた設計学の概説書である。著者は、設計の本質を、人間に備わる普遍的な能力である創造能力のひとつであり、工業製品の生産だけでなく日々の行動(行為の計画、意思決定など)においても重要な役割を果たすものととらえ、その観点から、設計学とは、産業界で実践されている設計活動と、設計の結果としての人工物に関する理解を深めるための学問だとする。

1章では、さまざまの工業製品に関わる設計の実際を観察している。それらの共通点を取り上げつつ、設計に関する学問体系を、個別・一般および具体・抽象の軸で分類したうえ、設計学として体系化することによって、設計を合理的・効率的に進めることが可能となることを示している。

2章では、歴史としての人工物の進化を実例を通じて説明し、どのような人工物の誕生の背景にも、その当時の技術水準、社会的要求、経済レベルなどの時代背景があったことを説き、続いて第3章では、人工物の歴史的な進化の背後に潜む条件を考察し、進化の過程での失敗例を理解することが人工物のよりよい設計にとって大変重要であることを指摘している。

4章は、工業製品がコンセプトの誕生から実際に設計・生産・使用され、最後に廃棄、リサイクルされる製品ライフサイクルについて述べている。とりわけ、最近の環境問題に対応したリサイクル前提の設計の重要性を指摘している。第5章は、この工業製品のライフサイクルのうち、設計過程をさらに細かく考察、概念設計、基本設計、詳細設計、生産設計という段階を経て進むことを示し、コンピュータ導入で効率化、低コスト化が図られている実態を紹介している。第6章では、設計の実際において用いられる様々なモデルを解説している。第7章では、設計に関する情報伝達手段としての図面を取り上げ、第8章では、製品は主要な機能だけを満足すればよいのではなく、設計には高信頼設計、フェールセーフ設計等多くの観点から最適であることが要求されることを示している。

9章は、理論体系としての設計学についての考察で、設計対象物に関する知識と設計過程に関する知識の2つに分類される。第10章は、様式や専門知識を超えて抽象的かつ一般的に設計を扱う一般設計学を解説している。一般設計学では、設計知識を公理論的な集合論としてモデル化することが基本となる。これによって、理論としての汎用性、普遍性を獲得しうるとしている。第11章では、設計における推論について、アブダクション(仮説生成)が大きな役割を果たすと説く。

 第12章、13章では、現代の工業製品の設計に不可欠な計算機を用いた設計支援システム、その理論と応用を解説し、第14章では、戦後日本経済の発展を振り返り、そこにおける設計が果たした役割と今後の方向付けを考察し、特に環境問題やライフサイクル全体を考慮した設計を提唱している。

【コメント】

本書の著者吉川は、ものづくりに係わる知識体系の著しい専門領域化が、問題解決を困難にしていることを論証し、一般設計学という学問分野を開拓して問題解決のための知識体系化をめざしている。本書は、そうした理論的営為に基礎つけられた設計学の概説書として、簡明ながらも多くの示唆に富んでいる。

織田勝也(2004531日)