Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods (third ed.)", Sage Publications, 2002       −3章・第4章・第5章−


【要旨】

第3章 ケース・スタディの実施:データ収集の準備(Conducting Case Studies:Preparing for Data Collection

本章のテーマは、ケース・スタディの準備とは何かである。Yinは、準備のプログラムとして、研究者の事前のスキルの獲得、特定のケース・スタディのための訓練と準備、ケース・スタディ・プロトコルの開発、対象候補ケース・スタディの選別、そしてパイロット・ケース・スタディの実施をあげる。

事前のスキルについては、優れた問いかけ能力、傾聴能力、適応性と柔軟性、研究課題の把握力、バイアス排除能力が問われるとされ、研究者が質の高いケース・スタディを実行できるよう準備するためには、集中的な訓練セッションが計画されるべきであると述べている。

ケース・スタディ・プロトコルについては、リサーチの信頼性を高める主要な準備のための戦術と位置づけ、プロトコルに不可欠な項目を例示する。リサーチが複数ケース・スタディ設計に基づく場合やそれに複数の研究者が参加する場合には、特にこうした手続きが望ましいと説いている。

第4章 ケース・スタディの実施:証拠の収集(Conducting Case Studies:Collecting the Evidence

本章は、ケース・スタディの実施における証拠の収集方法を検討している。まず、ケース・スタディの証拠の重要な源泉として、文献、資料記録、面接、直接観察、参与観察、および物理的人工物の6つを上げているが、これらの利用については、やや異なったスキルと方法論的手続きがそれぞれに必要だとしている。

こうした個々の源泉に加えて、ケース・スタディでのデータ収集にとって支配的な3つの原則を提示する。すなわち、@複数の証拠源の利用、つまり2つ以上の源泉からではあるが、同じ事実あるいは発見物に収斂する証拠を三角測量的手法で利用すること、Aケース・スタディ・データベースの作成、つまり最終的なケース・スタディ・リポートとは異なる公式の証拠の集合を作り情報管理すること、B証拠の連鎖の維持、つまり問われた問題、収集されたデータ、および導き出された結論の間の明示的な結びつきを維持することである。これらの原則は、上記6つの源泉すべてに関連するものであり、ケース・スタディの構成概念妥当性と信頼性確立に貢献するものであることを示唆している。

第5章 ケース・スタディの証拠の分析(Analyzing Case Study Evidence

 データ分析方法を検討する本章では、はじめに一般的な分析戦略をもつことの重要性について述べている。一般戦略として打ち出しているのは、@ケース・スタディによって明らかにしようとする理論的命題に依拠する、A対抗解釈を引き出し、その論理的妥当性をテストする、Bケース・スタディを体系化するための記述的枠組みを開発する、の3つである。

また、この戦略を実行に移すには、次の5つの主要な分析技法を用いるべきだとしている。すなわち、@パターン適合、A説明構築、B時系列分析、C論理モデル、およびDケース間統合である。研究が単一ケース設計であろうと複数ケース設計であろうと、@からCまでの技法は適用可能であり、また、ケース・スタディはすべてこれらの技法を考慮しなければならない。さらに、どのような分析戦略と技法を選ぼうとも、@関連するすべての証拠に依拠していること、Aすべての主要な対抗解釈に十分に関心を向け検討吟味すること、Bケース・スタディの最も意味ある側面に注目すること、C自分の専門的知識を生かすこと、が前提として要求されて来ると説くのである。

 

【コメント】第12章の総論についで、ケース・スタディの実施に係わる課題を取り上げたのがこの第3・4・5章である。具体的実施における指針も、リサーチ設計の戦略(2章)に対応する形で、体系的に展開されている。実施計画の設計について事前の完全性を追究する著者の立場を考えると、本書は実践的マニュアル書というより、ケース・スタディの理念を提起した書と捉えるべきかもしれない。本書から窺えるのは、リサーチのすべての段階で観察可能な含意と対抗仮説の徹底的洗い出しおよびその検討を行うことによって、ケース・スタディの客観性は担保されうるということであろう。

織田勝也(2004426日)