Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods", Sage Publications, 2002. Chapter3, 4, 5

政策・メディア研究科(ITビジネスプログラム)修士課程1年 80425676 本橋 英聡 hideaki@sfc.keio.ac.jp

 

■要約

ケーススタディの準備には主に、研究者の事前のスキル確立、特定のケーススタディのための訓練と準備、ケーススタディ・プロトコルの開発、そしてパイロット・ケーススタディの実施がある。

研究スキルとして一般的に要求されるのは次のようなことである:優れた問題を問いかけられる、すぐれた聞き手である、適応性と柔軟性を持つ、研究中の課題をしっかりと把握できる、あらかじめ想定した見解からバイアスをかけない(これは極めて難しい為、後述されるデータ収集・分析の手続きが重要となる)。

調査実施者は、収集されるデータに対し知的な決定を下せる必要がある。そのため、調査の全ての段階についての包括的な理解の獲得、加えて調査の設計・課題の問題点抽出が事前のセミナー等を通した訓練によりなされる事が望ましい。ケーススタディ・プロトコルの開発は、調査の信頼性を高めるための主要な戦術であり、調査を実施する際の指針として重要である。具体的にその手続きに含まれるべきものは、調査の概略・フィールドでの手続き・研究課題・調査レポートの指針である。また、パイロット・ケーススタディはあくまで事前テストではない。データの内容と従うべき手続きの両方で、データ収集プランを洗練させるべきものである。

 

ケーススタディにおける証拠は、文書、資料記録、面接、直接観察、及び物理的人工物の六つの源泉から収集される。それぞれに強み弱みがあるが、これらを利用するには、やや異なったスキルと方法論的手続きが必要となる。また、これらのデータ収集には幾つかの重要な支配的原則がある:1.同じ事実あるいは発見物に収斂する複数の証拠源を利用する、2.ケーススタディ・データベースの作成による証拠の管理・体系化、3.問題・収集されたデータ・結論の間の明示的な証拠の連鎖を維持すること、である。これらをしっかり行っておくことが研究の再現可能性・正確性・信頼性の確保に繋がる。

 

ケーススタディでの証拠の分析が特に難しいのは、その戦略と技法が十分に定義されてこなかったからである。調査を実施する上でははじめに一般的な分析戦略を持っておくことが望ましい。それには、理論命題に依拠する戦略、対立説明を定義し検証する戦略、スタディを体系化するための記述的枠組みを開発する戦略の3つのアプローチがある。また、特定の分析手法としては、パターン・マッチング(現象におけるパターンの抽出)、説明構築(パターン・マッチングの発展による論理的説明構築)、時系列分析(時間を“軸”とした分析)、論理モデル(予め構築した論理的説明モデルの検証)、複数ケース統合(複数事例の横断的分析)、が質の高い調査の基礎を築くための有効な方法である。これらの戦略・手法を駆使して調査を行うにあたり、以下の点に留意すべきである。1.全ての証拠を考慮する、2.対抗する解釈方法に注意する、3.そのケースの特筆した側面に注意する、4.自分の専門知識をスタディに活かす。

 

■コメント

ケーススタディへのマニュアル的記述の印象が強い。実際の調査がこのようなマニュアル通りに進むとは考えられないが、これらの事を調査の基本的な“指針”として知っているかどうかはクオリティに大きな要因を与えるだろうと考えさせられる。また、偏見なくデータを構築していく上では一つ一つの手続きの重要性・奥深さに慎重にならねばならないと感じた。質の高いケーススタディの困難さを改めて感じされられた印象がある。