Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods", Sage Publications, 2002.
要旨
ケーススタディは「どのように(how)」「どうして(why)」という疑問が発生した際に、現在進行中の現象に対して行われるものである。リサーチクエスチョンの種類によって、調査の種類を分類することができる。それとは対照的に「何が(what)」「誰が(who)」「どこで(where)」を調べるのはサーベイだ)。ケーススタディと実験は共通の部分を持つが、ケーススタディは対象に対するコントロールはできないが、多種の証拠を扱うことができる。一方、実験は対象を操作できることもある。ケーススタディに対する偏見には、厳密さに欠ける、科学的根拠に欠けるというというものがある。だが、ケーススタディは「標本(サンプル)」ではない。最終的には理論化を目指すもので(分析的一般化)、数値を列挙するものではない(統計的一般化)。
ケーススタディの設計のためには、リサーチデザインが必要である。
[実地データ⇒(潜在的な)リサーチクエスチョン⇒結論] といった一連の流れをここでは「デザイン」と言う。青写真と言い換えても良い。リサーチデザインは5つのコンポーネントで構成される。
1)調査(study)の質問 :「どのように(how)」「どうして(why)」を扱う。
2)計画:やろうとしていることを明確にする。やるべきことではない。発見が目的の場合は計画がないことも。
3)分析の単位:ケースの定義は条件と分析単位で決められる
4)データと計画の論理性 5)分析と発見 :データと仮説のつながり
データを集める前に、理論を構築することが必要である。調査に関連する領域全体を意識すべきである。理論として一般化する手法には、analytic(分析)とstatistic(統計)がある。ケーススタディの結果として統計的一般化を用いることには落とし穴がある。ケースは標本ではなく、個々のケースは新発見に値する。
ケーススタディの戦術は4つある。これらのデザインは初期にのみ用いられるものではない。
1)構造的妥当性:
ケーススタディで特に問題になる。
・複数の根拠を用いること
・根拠の関連性を組み立てること
・ケーススタディのドラフトを他者にレビューしてもらうこと
2)内部妥当性:
・パターンマッチング
・説明の構築
・対立仮説について述べる
・論理モデルを用いる
3)外部妥当性:
スタディの結果が一般できるかどうか。単一では証拠として十分ではない。結果を置き換え、理論をテストする。
・単一のケーススタディにて理論を用いる
・複数のケーススタディにて重複論理を用いる
4)信頼性:
エラーと偏見を最小にする。できるだけ詳しくドキュメント化する。
・ケーススタディプロトコルを用いる
・ケーススタディデータベースを開発する
単一のケーススタディは、極端なケース、象徴的・典型的なケース、前例のないケース、違う視点による分析が行われるケースに対して行われる。全体として捉える場合、抽象的になりがちで、データに欠けることがある。一方、ユニットで構成されるものは、逆に全体的な視点が失われるおそれがある。複数のケーススタディにおいて、2〜3の事例が同じ事例を示せば重複が示され、4〜6の事例において対照的だが予想内の結果が出れば理論上の重複が示されることになる。調査の精度を上げたいならば、できるだけ多くのケースがあればよい。実際には、単一のケーススタディよりも複数のケーススタディの方がよく使われている。一つだけのケースに対する不安もあり、最低でも2つ、というところだろう。
コメント
「ケーススタディ」という言葉は本書を読み始めるまでもっとラフに捉えてしまっていた。本書の1章・2章ではケーススタディに対する偏見に対して一つずつ明確に切り分けを行っている。例えば、同じ調査でも「ケーススタディ」と「サーベイ」は質問(知りたいこと)からして異なることなど。ただ興味だけでケースに向かい合うだけでなく、それを分析し理論に導くためには「リサーチデザイン」が必要だという。このコンポーネントは分かりやすく、ケーススタディが単なる経験則ではなく手法の一つであることを示していると思う。
折田 明子(2004年4月19日)