Yin, Robert K., "Case Study Research: Design and Methods (third ed.)", Sage Publications, 2002 −第1章・第2章−
【要旨】
本書の第1章と第2章は、著者Yinが確立を目指すケース・スタディの方法論の全体を総括的に提示する部分である。ここで、後に続く各章で展開する具体的実施方法に対し、それらを包含する戦略を明らかにしようとしている。
第1章 イントロダクション(Introduction)
著者は、まず、社会科学リサーチの諸方法との比較におけるケース・スタディの位置付けを確定しようとする。そこで、各リサーチ戦略(ケース・スタディおよび、実験、サーベイ、歴史、資料情報の分析)に特有の長所と短所を、a)リサーチ・クエスチョンのタイプ、b)実際の行動事象に関する研究者の制御、c)歴史現象ではなく現在の現象への焦点の、3つの条件への依存で分類する。そこから著者は、一般に、ケース・スタディが望ましいリサーチ戦略であるのは、「どのように(haw)」または、「なぜ(why)」という問題が提示されている場合、研究者が事象をほとんど制御できない場合、そして現実の文脈における現在の現象に焦点が当たる場合だと整理する。著者がもっとも強調するのは、リサーチ戦略としてのケース・スタディはデータ収集やデータ分析への特定のアプローチを取り込んだ設計の論理を持つ、すべてを包括する方法だという点だ。また、著者は、ケース・スタディ戦略を、定性的リサーチと定量的リサーチの本質的に共通する基礎に基づくものだとも主張する。(P.14-15)
この章で著者は、単一あるいは複数ケース・スタディを実施する方が、例えばサーベイより望ましい状況を示し、他のリサーチ戦略との違いを際立たせようとし、また、この方法に対する伝統的な批判への反論を行いつつ(P.10-11)、それまでのケース・スタディの弱点を克服する方法論を提出しようとしている。
第2章 ケース・スタディスタディの設計(Designing Case Studies)
リサーチ設計とは、収集されるデータおよび導き出される結論をリサーチ・クエスチョンに結びつける理論(論理の連鎖)である。それは、データを収集し分析し解釈する過程における研究者の指針となるとともに、適切に開発された理論は、研究結果を一般化するという課題の主要な媒介物となるのである。
リサーチ設計の構成要素は、研究問題、命題、分析単位、データを命題へ結びつける理論、発見物の解釈基準の5つである。完全なリサーチ設計とは、最後の2つの要素を含み、データを収集した後に何を行うべきかをも明らかにするものでなければならない。(P.38)
また、ケース・スタディ研究者に対し、次の4つの側面の設計の質を最大限に高めなければならないことを要請する。a)構成概念妥当性b)内的妥当性(説明的あるいは因果的ケース・スタディの場合のみ) c)外的妥当性 d)信頼性 である。この4つの品質管理をどう扱うべきかを本章は要約しているが、それは、本書の残りの章の主要なテーマでもある。(P.33-39)
実施するケース・スタディ設計は、主要な2つのペアのマトリックスからなる4つのタイプに分かれる。第1のカテゴリーのペアは、単一ケース・スタディと複数ケース・スタディ設計からなる。第2のペアは、第1のペアのいずれかと組み合わせになるが、扱われる分析単位に基づいて、全体設計と埋め込まれている部分設計に分けられる。著者は、複数ケース・スタディ設計においては、サーベイで一般に用いられるサンプリングの論理と区別する追試の論理(Replication logic)の重要性を指摘している(P.47)が、さらに付け加えて、著者は、理論の一般化において信頼性が高いとみなされる複数ケース・スタディを望ましい方法だとしている。
【コメント】
本書は、社会科学のリサーチ研究方法における、統計的研究方法(statistics method)と対置される事例研究方法(case study methods)についての体系的理論書であり、かつ実践的マニュアル書でもある。著者Yinのこのリサーチ戦略は、本書序文にあるように、準実験室的アプローチというべき理論実証主義の系列に連なる方法論をケース・スタディに持ち込むことで、リサーチ戦略におけるひとつの科学的枠組のモデルを提示しているといえよう。
織田勝也(2004年4月19日)