安田雪、『ネットワーク分析:何が行為を決定するか』、新曜社、1997

 

[要旨]

本書を通じてのメッセージは,行動といったある現象を説明するには,「属性や個人の内面的な資質だけから説明しようとするのではなく,その人を取り囲む周囲の連帯関係に目を向けるべき」(p.207)という提案である。ネットワーク分析とは,レヴィ=ストロースに代表される構造主義をバックボーンとし,社会構造を行為者間のネットワークとして捉え,そのさまざまな関係のパターンの構造を記述・分析する方法である。この「行為者のあいだの関係構造」(p.16)が行為を決定するというのが基本的な考え方となっている。分析の目的は,特定の行為者を取り囲むネットワーク構造の把握することと,行為者の行動や思想にそのネットワークが影響を及ぼすメカニズムを明らかにすることにある。前者について,このアプローチには,ネットワーク全体を分析する「ソシオセントリック・ネットワーク」と,特定の行為者が周囲と取り結ぶネットワークを分析する「エゴセントリック・ネットワーク」がある。

第U部ではネットワーク分析の方法・手順が示される。ネットワークを表現する点と線(紐帯)からなるグラフ(ソシオグラム)について,その方向性の有無(有向/無向グラフ),最大可能な関係数で表現される密度,隣接,出/入次数,孤立点を例示し,トライアドではダイアドではみられなかった関係の性質が確認できる点,ネットワーク分析とネットワーキングの相違として,前者は構造が安定したネットワークの分析に有効であるのに対して,後者はネットワークの生成淘汰という動的側面を考察するのに有効である点を指摘する。続けて,重みつきグラフの表現,インシデンス行列からの@イベントとイベントの関係,A行為者間の関係,B行為者とイベントの関係の抽出,関係の強さ(紐帯の力)と与えるべき作業定義,ネットワークの範囲(境界,その多様性および「社会的に重なり合っている領域」の有無)を扱う。後半では,キーコンセプトとなる「密度」,「中心性」,「直接結合」,「構造同値」,「クラスター」,「構造的制約」について説明する。密度では,ネットワーク最大可能な間係数の合理的推測の限界に触れ,中心性では,@ノードの持つ紐帯数(次数,出/入次数でみる場合の違い),Aノード間の距離(パス長),Bノードの持つ媒介性の3つの計測規準が存在する点,「社会関係において人間の行動様式を統制する能力」として定義される「権力」と結びつく点を確認し,「権力のゼロ・サム概念」をひきながら「関係者のあいだに存在する相対的な特性を,連続量の変数としてとらえる必要」(p.89)を主張する。直接結合ではクリークの概念を,直接的な関係の有無を問題としない構造同値では,ユークリッド距離を用いての測定方法,競争原理が働く点および役割同値の概念の位置付けを示している。ネットワーク分析に用いられる分析手法であるクラスター分析では,類似性をはかる指標として上記の直接結合・構造同値・役割同値の概念が用いられる点,実際に3つの概念を指標として用いた場合に表れるクラスターの違いを例示している。最後に,産業間の取引ネットワークを事例に,市場集中度とバーゲニング・パワーの関係性から,構造的制約(あるいはネットワークの優位性)について説明する。そこでは,ネットワーク構造のパワーの原則として,主人公が自分の場合は@同種企業による結束,A代替となるライバルと競争させられない,B結束していない,競争状態にあるものにリンクする(p.118),ことが挙げられている。

第V部の応用研究例では,ネットワーク構造の変化,弱い紐帯の橋渡し機能,構造同値から競争原理が働く例,日米産業比較などが示される。

 

[コメント]

社会を行為者間の相互関係として捉え,ネットワークにかかわる概念を丁寧に紹介している。社会構造の生成・安定・淘汰の側面のうち,ここでは安定局面の分析に焦点を当てる。第V部で変化しにくい構造の変化を捉える事例を紹介し,変化を捉える際のターゲットを示すものの,そのプロセスを分析する手法については,ネットワーク分析,ネットワーキングのいずれからも具体的な言及がない。ジンメルは諸科学の「方法」としての社会学の存在意義を示したが,ネットワーク分析においてもこの点を確認できる。2004126日 坂井 健太郎)