Wiener, Norbert, “THE HUMAN USE OF HUMAN BEINGS: CYBERNETICS ANS SOCIETY, 2nd edition,” Doubleday, 1954.(邦訳:鎮目恭夫・池原止戈夫訳、『人間機械論 第二版 人間の人間的な利用』、みすず書房、1979.

 

[要旨]

 「本書の主題は、(略)、社会というものはそれがもつ通報および通信機関の研究を通じてはじめて理解できるものであることと、これらの通報および通信機関が将来発達するにつれて、人から機械へ、機械から人へ、および機械と機械との間の通報がますます大きな役割を演ずるに違いないことを示すことにある。」(p.9,10

 Cyberneticsとは、通報の伝送に関する電気工学的理論(通信、制御、情報の処理)を、通信のみならず、人間や機械、その他社会の諸構成部分に適用することにより、社会の仕組みを解明しようとする思想のことである。われわれが、自らをとりまく社会環境を制御する際に出す命令は、一種の情報と捉えることができる。この命令は、通信路を使った情報の伝送と同じく、伝送中にかく乱を受け、最初に発信された状態よりも内的相互関係が乱れた状態で伝わっていく。このエントロピーの増大と戦う手段が「制御」であり、これはフィードバック機能を通じで実現される。現実社会における目標の達成を目指した種々の合目的的な行動は、フィードバック機能を通じた制御により、エントロピーの増大と戦いながら目標に向かって進んでいく。

 情報処理では、アウトプットを得るために、あるデータがインプットされる。インプットされるデータは、フィードバックを通じて合目的的なものに制御される。フィードバックとは、「機械を、それがやるはずの行動によってではなく、実際にやった行動に基づいて制御すること」(p.19)であり、「あるシステムがすでに遂行した仕事の結果をそのシステムに再挿入することによって一つのシステムを制御する方法」(p.61)である。生物も機械も、フィードバックを通じてエントロピーを制御しようとしている点で類似していると著者は捉えている。

 「ある種の機械と一部の生物−とくに高等な生物−は、(略)、自己の行動のパターンを過去の経験に基づいて修正し、特異な反エントロピー的目的の達成に適合させる。」(p.47)伝えられる情報量は、エントロピーという非加算的な量と関係があり、閉じたシステム内ではエントロピーは自発的に増大する傾向があるのに対し、情報は自発的に減少する傾向がある。そして、エントロピーは無秩序さの程度を表すのに対し、情報量は秩序性の程度を表す。情報とエントロピーは双方とも容易に保存されることができない(p.122)。情報とは、保存されるよりも利用されることが大切である、と本書では述べられている。

 

 

[コメント]

 サイバネティクスでは、物事はフィードバックシステムを通じて、合目的的なものに制御されながら、目的に向かって進んでいくものとされている。意思決定事項が外部環境として与えられる実証主義的なアプローチと異なり、社会過程の構成員が意思決定主体となり得、自己の行為の結果がフィードバックシステムを通じてエントロピーを制御し、行為を合目的的なものに導くという未来志向的な視点は政策のデザインにも応用できそうである。しかし、その目的は誰が設定し、その妥当性は何によって担保されるのであろうか。そして、政策はエントロピーの制御のみを視野に入れれば十分で、その改良はフィードバックシステムにのみ負わせれば十分なのであろうか。また、実際にこれを政策形成過程のデザインに適用しようとすると、検証にかかる期間が極めて長期になると予測されることが難点である。

 

             20041018 藤井 資子)