竹田陽子、『プロダクト・リアライゼーション戦略−3次元情報技術が製品開発組織に与える影響』、白桃書房、2000年
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【要旨】
本書は、3次元情報技術が製品開発組織に与える影響について研究した博士論文である。本書を貫く著者の主張の要点は、製造業における情報技術の本質を「人の頭の中にあるイメージやコンセプトをさまざまな知識と結合させながら、工場で生産可能な製品のかたちに実現するプロダクト・リアライゼーション(Product Realization)の支援道具」ととらえるべきこと、その本質が、3次元情報技術でとりわけ明瞭に発揮されるようになったということである。著者は、まず、情報技術の機能が持つ2面性―プロセッサー機能とメディア機能―に着目するとともに、そのメディア機能が、新世代3次元CAD、CAM、CAE、ラピッド・プロトタイピングといった新3次元情報技術に特徴的に備わっていることを見出し、それが製品開発プロセスに導入された場合にプロダクト・リアライゼーションで持つ効果の諸側面を、事例研究を通して抽出する。
本書は三部構成となっている。第一部(現状と理論)では、新世代の3次元情報技術の特性と製品開発プロセスの改革に関する現状認識を述べ、組織論とテクノロジー・マネジメント論、経営情報システム論からの理論的検討が行われる。そこから、3次元情報技術のメディア機能が、導入戦略にもよるが、機能部門や企業間のコミュニケーションの前倒し現象、すなわちコミュニケーションのフロント・ローディングを促進するという仮説を立てる。
第二部(実証研究)では、仮説をさらに検討し、情報技術の導入戦略が部門間コミュニケーションのパターンに及ぼす影響と、さらにパフォーマンスに及ぼす影響に分け行った実証研究である。コミュニケーションのフロント・ローディング仮説は、メディア機能活用戦略がとられた場合、設計・金型間では支持され、デザイン・設計間では、さらに両工程の一体化が進むという分業構造の変化が見られることが示される。だが、技術導入戦略の違いで、プロセッサー機能のみを使った場合は効果が異なることが指摘される。その上で、もうひとつの仮説―情報技術のメディア機能を活用したプロジェクトでは、従来の図面ベースのプロジェクトに比べて開発パフォーマンスの向上がもたらされる―を立てるが、それはおもに開発期間の短縮のかたちで実現していることが実証される。
第三部(ダイナミックプロセスに向けて)では、組織特性の仮説への影響を取り上げ、各部門が蓄積している知識・知識獲得に関する戦略と、機能部門間の分業形態が、事例より変数として見出されると結論付ける。また、3次元情報技術の利用が既存の機能部門間の分業構造の変革をももたらす可能性、さらには「ものづくり産業」の再統合と再分化を促す可能性についても考察を広げている。
本書の理論的貢献は、著者自ら述べるように、情報技術のメディア機能による各組織ユニットの知の吸収支援メカニズムを明らかにし、情報技術の導入戦略の存在を指摘し、技術と組織の相互作用によるダイナミックな進化モデルの手がかりをつかみ出したことにある。
【コメント】本書は、情報技術のメディア機能に焦点を当てることで、製造業のプロセスに埋め込まれていた暗黙知を可視化させ、技術と組織間のみならず、人と組織との相互作用をプロダクト・リアライゼーションの観点から促すための設計書としても読める。3次元情報技術やインターネットが「ものづくり産業」における「協働」構造の再編につながるという著者の指摘は、現実に進んでいる。そこでますます問われるのは、著者の提起するように、「絶えず進化する生きた情報の流れをいかに作り出すか」であろう。
織田勝也(2004年11月8日)