Orlikowski, W.J. and Baroudi, J.J., "Studying Information Technology in Organizations: Research Approaches and Assumptions", Information Systems Research, Vol.2, 1991.
[要約]
研究者がIS事象を調査する際に採用する研究アプローチの意味について反省を促すことが本稿の目的となっている。1983年から88年までに出版された155本のIS研究論文を検討したところ, 96.8%がpositivism(実証主義),3.2%がinterpretive(説明),critical(批判)は0%であることが確認された。以下本稿では,この支配的な観点であるpositivismのほか,interpretive,Critical各々について,仮定(Chuaによる3つのカテゴリの観点からの検討)・研究例・評価を示している。筆者は3つの研究アプローチの意味を考察するうえで,Positivistをinterpretiveやcriticalで置き換えることを意図しているのではないとしている。筆者は,採用する観点によって注意を向けられなくなるもの,事象の認識にバイアスがかかることに対して,研究者は認識すべきであると主張する。
positivistとinterpretiveが現状維持を説明するのに甘んじているのに対し,Criticalは既存の社会システムを批判し,これらの構造の中に本来含まれている矛盾と衝突を明らかにする点に関心を寄せる。
まず仮定では,社会的実在性(social reality)について,1)それが歴史的に構成されている(それゆえ人間,組織,社会はある特定の状態に閉じ込められない),2)独立要素として扱えるものは存在しない,の2つを中心的アイデアとしてあげている。前者について,人は物質的,社会的環境を変えるために行動できるが,これは潜在能力から疎遠になることで妨げられていることを指摘し,様々な社会的優位性に対する理解と注目を喚起することに重要性をおく。後者について,社会的実在性は継続的に変化を受ける不安定なものである点を指摘している。Knowledgeと理論と実際について,positivistとinterpretiveとの相違について言及し,社会変化を起こすことにおける理論家の役割の違いを主張している。次にSmithの研究例をとりあげその強みと弱みを示している。弱みとして,現状維持を変えていく手助けが示されていない点,仕事場における矛盾した社会的関係の性質と意味合いについての記述に失敗している点を挙げている。最後の評価では,理論とknowledgeが不確定である点,受け入れられる理論や説明についていまだ議論の余地を残す曖昧な点を指摘している。
[コメント]
筆者がcriticalアプローチの備える特徴として主張する,既存の社会システム構造の中に本来含まれている矛盾と衝突を明らかにする点について,自身の研究のリサーチクエスチョンを設定するのに有益なものとなった。しかしながら,社会的実在性について,部分と全体の関係性はどこまで見通せるのか,あるいはどこまでを社会とするかを客観的に設定することは可能なのかについて,疑問が残る。また,実証主義が占めることの理由,その強さについても興味が持てると同時に,論文発表時点でcriticalの占有率が”ゼロ%”であった背景や理由についても考えたい。
以上(2004年5月24日 坂井 健太郎