小川進、『流通システムの新しい担い手:ユーザー起動型ビジネスモデル』、組織化学、Vol. 35、No. 4、2002年、20-31ページ.
[要旨]
本稿の目的は、ユーザー起動型ビジネスモデルを構築し実践している2社(エレファントデザインとエンジン)の事例を分析し、このビジネスモデルを採用している企業の台頭が日本の流通システムで果たし得る役割について議論することである。
ユーザー起動型ビジネスモデルとは、「ユーザー発の製品アイデアを実際に製品化し、市場化しながら利益を生み出す仕組み」のことを指す。ユーザー自身が企業側に製品アイデアを発するという点で、従来のメーカー主導型の製品開発体制とは大きく異なっている。ユーザー起動型ビジネスモデルにおける商品化プロセスは概ね次のようになっている。@消費者が当該ビジネスモデルを運営する企業のインターネット上の掲示板に商品のアイデアを書き込む、A企業が消費者からのアイデアの市場性を推定する、B商品の市場性が見込める場合にメーカーとのやり取りを通じでて最小購買者数(ロット数)と販売価格を決定する、C最小必要ロット数と販売価格を商品価格とともにインターネット上に公開し、購買希望者数を募る、D応募者数が最小必要ロット数を超えた場合に商品化し、販売される。
ユーザー起動型ビジネスモデルを実践している2社に共通しているのは次の7点である。@ユーザーが当該ビジネスモデルを実践している企業の掲示板に自分の発案を書き込み、その存在を積極的に訴求していること、A受注生産体制をとっていること、B潜在顧客への見本の提示にあたり企業側が工夫をしていること、Cインターネットが企業とユーザーとのコミュニケーションメディアとして活用されていること、D企業側がユーザーコミュニティの存在をターゲット顧客層として意識していること、E小規模生産ロットを想定していること、F競争優位の源泉がビジネスモデルにおかれていること。
このビジネスモデルが流通システムで果たす役割は、@ユーザーにとって欲しい物を手に入れる機会を豊富化させること、Aユーザー・イノベーションが実現するためのインフラを提供すること、B中小流通企業と中小メーカーに存在根拠と成長の機会を与えること、である。このモデルは中小の流通企業とメーカーにとって魅力的な事業機会を提供するものの、それが生み出す利益は既存大企業にとっては規模の小さなものであり、大企業との棲み分けが可能となり、中小流通企業と中小のメーカーにとって存在根拠と成長の機会を与えることになる。また、このモデルは日本の中小メーカーの高い技術力を前提としており、このモデルを採用する企業は、メーカーと消費者との間の情報と商品の流れを組織化することによって収益を生み出している。
つまり、ユーザー起動型ビジネスモデルにおいては、流通システムにおける知識の創造と流通を促進し、消費者が発信するニーズ情報とメーカーの技術情報を組織化することで新商品が創造される。そして、その商品やユーザーニーズを商品化するシステム自体を販売することで収益を確保している。
[コメント]
インターネットの出現という情報技術の進歩が、ユーザーの発信するアイデアの商品化という新たなビジネスモデルを生み出し、製品開発のイノベーションの担い手を従来の川上のメーカーのみから、エンドユーザーにもその任を拡大することに成功した。ユーザー発信情報を製品化に結びつけるという「ユーザー起動型ビジネスモデル」を採用している2企業の事例を通して、情報技術がメーカーと消費者の間の情報と商品の流れを組織化し、既存の流通システムに変化をもたらしたことを解明しているケース事例論文であり、数個の事象(個別会社の事例)からより大きな世界(情報技術が流通業界にもたらした影響)を知る方法を明示している。
(2004年5月24日 藤井 資子)