Hevner, Alan R., Salvatore T. March, Jinsoo Park and Sudha Ram, “Design Science in Information Systems Research,” MIS Quarterly, Vol. 28, No. 1, 2004, pp. 75-106.

 

[要旨]

 情報システム研究においては、behavioral science(行動を科学するもの)とdesign science(デザインを科学するもの)の2つの基本的なパラダイムが存在する。behavioral scienceは自然科学のリサーチ方法に由来する人間や組織の行動を説明する精緻な理論を探求するパラダイムである。一方、design scienceは、エンジニアリングと人工物の科学に端を発しており、新たに革新的な人工物を創造することにより問題の解決を目指し、人間や組織行動の境界を拡張しようとするパラダイムである(デザインとは、プロセスのデザインと人工物のデザイン、双方の意味を持つ)。二つのパラダイムはそれぞれ別個のものであるが、相互補完的である。本稿の目的は、情報システム研究においてdesign scienceが果たしえる役割を、概念的なフレームワークとリサーチの実行・評価に関するガイドラインの提示を通じて説明することである。

 情報システム研究では、環境が問題空間を定義する。問題空間は、人・組織・技術によって構成されており、研究を通じて組織内の人員が認知しているビジネスニーズが明らかになる。ビジネスニーズは組織文化や技術、コミュニケーション形態等、様々なものに影響を受ける。したがって、ビジネスニーズを明確にするために研究のフレームワークを構築することは研究の妥当性を高めることに寄与する。

 ビジネスニーズに対し、行動科学では理論の開発と正当化によって問題解決にあたり、デザイン科学では人工物の構築とその評価を通じて問題解決にあたろうとする。行動科学の目指すところは「真実」であり、デザイン科学の目指すところは「実用性」である。真実がデザインを導き、実用性が理論(真実)を導くため、この二つは不可分である。両アプローチ方法とも問題解決への寄与度で評価が行われるが、理論を正当化する行動科学的なアプローチは未来の問題を(現在存在していない問題を)扱うのには適してない。一方、デザイン科学では、未知の問題に解決策を見出し体系化することで、それがベスト・プラクティスとなる。

 デザイン科学リサーチのガイドラインとしては、@実行可能な人工物としてデザインすること、Aビジネス上の問題と関連のある重要な問題に対して技術的な解決策を見出すこと、Bデザインされた人工物は、実用性、品質、効用等の側面から厳密な評価手法で評価されること、Cリサーチが人工物そのもの、デザインの基礎、デザイン方法に関する明確で検証可能な貢献を果たすこと、D人工物の構築、評価に際して、厳密な手法が適用されること、E人工物のデザイン過程を通じて、問題事象に関する何らかの解決策を見出すこと、Fリサーチが技術的にもマネジメント的にも通用するものであるようにすること、の7項目があげられている。

 デザインされた人工物の評価手法としては、a.観察的なものとして、ケース・スタディとフィールドスタディが、b.分析的なものとして、統計的分析、アーキテクチャ分析、最適化、動態分析が、c.経験的なものとして、制御実験、シミュレーションが、d.試験的なものとして、昨日試験、構造試験が、e.記述的なものとして、情報に基づく議論、シナリオ分析があげられている。

 新たな人工物がどのような実用性をもたらしたのか、その実用性は何によって示されるかという2点がデザイン科学のエッセンスとなる。

 

[コメント]

 行動科学とデザイン科学は本当に相互補完的なパラダイムなのか。デザイン科学においても、真理の探究は必要であるが、実はそれは行動科学が目指しているものとは異なる、つまり「知るために知ること」と「作るために知ること」は異なるのではなかろうか。

                          20041025 藤井 資子)