Benbasat, I., Goldstein, D.K. and Mead, M., "The Case Research Strategy in Studies of Information Systems," MIS Quarterly (11:3), 1987, pp. 369-386.
2004.5.10 折田明子
要旨
この論文は、情報システム分野におけるケーススタディの実施にあたってのガイドラインを示した上で、4つのケース論文について考察し、ガイドラインに沿って評価を行っている。情報システム分野では、コンテクストにおいて現象を理解することが求められ、定性的な手法に対する関心が高まっている。
ケーススタディは現象そのものを調べる。変数に対しての生得的な知識は少ない。参加型調査とは異なり、観察者としてリサーチ・クエスチョンを特定することが求められる。ケースの実施にあたっては、ケース戦略の妥当性を問わねばならない。分析の単位は、どのような一般化をしたいのかという目的によって異なる。単一のケースは初めの一歩として用いられ、その後の理論構築において複数ケースを用いる。現場の選択は、トピックに応じて行うが、第三者に相談することも必要だ。特に、組織を対象とする場合は、組織に対して不利益が生じない保証をすべきである。現場を訪問する前に、集めるべきデータを書き出しておく。
4つのケース研究を考察する。Markusの論文はユニークな事例を扱っている面で新規性がある。Duttonの論文は徹底した資料収集により技術的・組織的な限界を検証したが、本来の研究目的が不明確だ。Pyburnの論文は比較ケース研究であり、データ収集の前に研究目的を明らかにしている。Olsonの論文は2つのケースを深く考察した探索的なものだ。いずれの研究も、発見したことを細かく説明している。
情報システムにおけるケーススタディをガイドラインに従って評価する。研究テーマには、実装(実施)を前提としている。研究目的は、もともと探索的であることもあり、明確にされていない。ここで取り上げた研究者たちも、説明をしていない。このことは、分析単位と現場の選択にも影響を及ぼす。選んだ根拠は示されるが、目的は読者には分からない。また、この研究者たちは、システマティックは研究計画を示しておらず、独立している。半数の研究事例において、データは複数の手段で収集されたが、残り半数はインタビューにのみ拠っている。また2つの研究事例ではデータ収集の方法が特定されていない。ケースのデータの殆どは定性的なものだが、アンケート結果など定量的なものもある。
ケーススタディが情報システム分野にふさわしいのは、技術が新しいことと、技術に関する関心が組織に関するものに移行しつつあることが理由である。調査者は方法論を軽視することがある。ケーススタディは手順を守って実施されるべきである。
コメント
「事象を操作しないこと」や参加型観察との区別は、ケーススタディにおける客観性を保つために必要である一方、研究目的が明らかにされず、そのために分析単位や現場の選択が不明確になってしまうジレンマが生じてしまう。探索的なケーススタディになるほど、この問題は大きくなるのではないか。ケーススタディにおいてどこまでを設計し、どこからを発見事項とするのかは事例によって異なると考えるが、むしろ集めたデータをどのように取り扱い、分析するかが重要になるのではないか。そのためには、データ収集の方法や手段、データの内容などの記録を綿密にとっておくことが必要かもしれない。