Barnard, Chester I., “The Functions of the Executive”, Harvard University Press, 1938.(邦訳:山本安次郎・田杉競・飯野春樹訳、『経営者の役割』、ダイヤモンド社、1968.

 

 

選択の自由や意思の自由を否定された受動的な個人と、選択の自由や意思の自由を認められた独立した存在としての個人の2つの立場を「調和させるのではなく」、分析する対象によって2つの立場を双方とも受け入れ、使い分けるというのがバーナードの主張である。ただし、「公式組織とは、意識的で、計画的で、目的を持つような人々相互間の協働である」とバーナードは定義する。これは人間を機械とみなし、軍隊組織や官僚組織の主として構造について分析を行なってきた伝統的組織論とは一線を画す組織観である。その上で、「体力、技能、技術、知覚、知識、記憶、想像力における個人的優位性」と、「決断力、不屈の精神、耐久力、および勇気における個人的優位性」を持つリーダーの必要性を説いた。

バーナードによれば、協働は物的・生物的・個人的・社会的制約による行なわれるものであり、「(これらの)諸要因が、ひとつでも欠けているような協働体系はない」とのことである。つまりここでは組織とは社会的な要請を受けた存在であるということが導かれる。そしてそのような組織の成立要件を(1)伝達(コミュニケーション)、(2)貢献意欲、(3)共通目的とする。

これらの要件を存続させるには、個人に誘因を持たせることが必要である、とバーナードは説く。誘引には(a)物質的誘因:貨幣や物など、(b)個人的で非物質的な機会:優越、威信など、(c)好ましい物的条件、(d)理想の恩恵:利他主義的奉仕、組織への忠誠、宗教的感情などの特殊的誘因と、(e)社会結合上の魅力:人種間の敵対や階級間の対立などに対する社会的調和、(f)情況の習慣的なやり方と態度への適合、(g)広い参加の機会:事態の成り行きに広く参加しているという心情、(h)心的交流の状態:相互扶助の機会などの一般的誘因があり、それらを(a)強制的状態の創出、(b)機会の合理化(~すべきものと理解させる)、(c)動機の教導(説得)という方法でリーダーが伝達する必要があると述べる。

 

     コメント・論点

     協働という概念で組織を定義したことこそが、組織構造に焦点を当てていた伝統的組織論と異なり、個人の目的・動機・心理に着目した組織論の始祖と言われる所以。

     注目すべきは「組織の構造、広さ、範囲は、ほとんどまったく伝達技術によって決定されるから、組織の理論をつきつめていけば、伝達が中心的地位を占めることとなる」という記述と「命令を受け入れるかどうかは部下が決定権を持っている」という記述である。当時から協働というコンセプトのもと、コミュニケーション、つまり人間間の関係性に注目した組織観が包含されており、また両者の権威を越えた対等な関係が想定されていたのである。これは情報ネットワークが普及した現在の協働を語る上で援用できる理論といえる。

     ただし、「自我意識を持たず、自尊心に欠け、自分のなすことを考えることが重要でないと信じ、なにごとにも創意を持たない人間は、問題であり、病的で、精神異常で、社会的ではなく、協働に適しない人である」ともバーナードは言っている。個人的にはネットワークのノードにつながるN数が増えた中での、一人一人の付加価値があまり高くない協働のモデルを考えているので、その点ではバーナードと相容れない部分があるとも考えられる。

2004614日 佐々木裕一)