Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “DESIGN RULES: The Power of Modularity,” The MIT Press, 2000.(邦訳:安藤晴彦訳、『デザイン・ルール―モジュール化パワー―』、東洋経済新報社、 2004年.)
[要旨]第U部(第6章〜第8章)
本書第T部(第1章〜第5章)では、人工物におけるモジュール型設計進化のプロセスが分析され、「設計のモジュール化」は、「分離」「交換」を含む6つのモジュール化オペレータにより「設計オプション」を作り出し、「設計進化」を生み出すとの考察が提出される。
本書第U部は、その考察された枠組みを用いて、モジュール化がどのようにコンピュータ設計に登場したかが記述される。
第6章では、コンピュータ設計における「先モジュール化時代」が取り上げられ、初期のコンピュータ設計にモジュール化の起源を見る。まず、フォン・ノイマンとその仲間(BGV)が提出した、新しいマシンの設計提案書「予備的議論」において、既に、核心部の概念はモジュール型を採用していたこと、さらに、モジュール化原理の異なる表現方法であるマイクロプログラム制御の発明、回路設計標準化の登場があり、「コンピュータという人工物の設計において新しく、より柔軟で効果的なアプローチの前兆となった」(p.196)こと、やがて、独立に適用されていたそれらの概念が単一の統合された文脈に結集させられ、IBMシステム/360誕生にいたったことが説明される。
第7章では、初の「真のモジュール型」コンピュータ・ファミリーであるIBMシステム/360を、設計者たちと経営陣が、実際、いかに構想・設計・導入したかが描かれる。システムの全体構想立案者アーキテクトたちは、まず、SPREADレポートにおいて、「既存プロセッサ製品をすべて捨て、互換プロセッサの新しいファミリーを開発すべし」との勧告を提出、以降、全社的にモジュール型コンピュータ開発に進んだ経緯が述べられる。最初、デザイン・ルールの明示的な集合を通じて設計を分割するとともに、それらのルールを厳格に守らせる管理システムを創ったことが、成功を導いた理由のもうひとつとして上げられている。
第8章では、システム/360の技術的設計とともに経営陣が採用した「事業体の設計」ならびに、その事業体の設計が、IBMの顧客、競争相手、従業員と他社のコンピュータのアーキテクトたちに与えた影響を明らかにしている。モジュール化の「価値の地形図」の中では、大きな地殻変動が絶えず生じているが、IBMは、モジュール型設計が持つ莫大な潜在的価値を実現するために、特殊な契約構造と、ファイナンス、マーケティング、オペレーションおよび競争面での特殊な戦略の開発を必要とし、実行する。「広範な統制」と呼ばれるこの構造は、モジュール型設計とその関連製品のタスク構造全体を取り囲む契約の集合からなるのであるが、「その構造が持つ力は、システム/360がIBMとそのライバルにもたらした金融面、競争面での衝撃によって明らかとなる」ほどのものであった。
[コメント]
コンピュータ業界のケースを事例として、モジュール化の持つイノベーションの力および、過去数十年にわたっておきたIT産業の革命的変化を見事に理論化している。産業分野ごとにモジュール化の浸透速度は異なるが、ディジタル情報通信技術の進展によって、モジュール化可能な領域は急速に深化・拡大していると思われ、あとがきにある「経済システムのレベル間での共進化のダイナミックス」が、どこまで産業構造を変革していくか、中小企業を含めた日本の産業構造の今後を考える上でも示唆的である。
(2004年10月4日 織田勝也)