Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “Design Rules: The Power of Modularity,” MIT Press, 2000.(邦訳:安藤晴彦訳、『デザイン・ルール―モジュール化パワー―』、東洋経済新報社、 2004年.)
2004年5月17日 佐々木裕一
2. 設計の細部構造
ある人工物の設計とは、その構造と機能の両方を包含する抽象的記述と定義される。構造とは、それ(人工物)が何であり、どのように構成されているか、であり、機能とは、それ(人工物)は何を行い、何のためのものか、である。
ある人工物の価値は、その構造によってではなく機能によって決まる。また同一の機能であるならば、コストが多くかかる構造よりも少ないほうが価値があるとされる。そしてこの原則に基づき、人工物の設計パラメータ(マグカップであれば、素材/高さ/容器の直径/ふたの有無など)を選ぶのが設計者の仕事である。
設計パラメータには階層的な関係性と相互依存性があり、設計構造行列(DSM)によってその階層的依存性と相互依存性は表現される。またタスク構造行列(TSM)ではタスク(行為)の調整必要性が表現される。設計・タスク構造は「独立型」「順次型」「階層型」「ハイブリッド型」に分類される。
3. モジュール化とは何か?
モジュールとは、その内部では構造的要素が強く結びつき、他のユニットの要素とは比較的弱く結びついている、ひとつの単位であり、そのような単位を創造することがモジュール化である。モジュール化を達成するためには「抽出」「情報を隠す」「インターフェース」という要因が重要となる。
デザイン・ルールとはタスクの相互依存性を排除する設計者の意思決定であり、特権的な設計パラメータである。これにより人工物の持つ構造、およびそれを設計する作業の複雑性は軽減される。
4. 人口物と設計を取り巻く経済システム
この章には見るべき記述はない。取引コストの経済学の理論のレビューであり、なぜ組織が存在するか、市場の資金調達機能、組織内リソースのマネジメントの必要性が語られる。
5. モジュール化オペレータ
モジュール型設計を推進する概念・道具として6つのオペレータが規定される。1:ある設計をモジュールに「分離」、2:あるモジュール設計を他のものに「交換」、3:ある新しいモジュールをシステムに「追加」、4:あるモジュールをシステムから「削除」、5:新たなデザイン・ルールを創造するためにタスクを可視化して上位階層に「抽出」、6:新たなデザイン・ルールを創造するためにタスクを可視化することなく上位階層に「転用」。これらの作業によってモジュール型設計は洗練度を増す。
■ 論点・コメント
・ エンジニアが経験的にわかっていたことを理論化したという作業に対しては敬意を表する。
・ だがモジュール化の議論は本質的な矛盾を孕んでいる。モジュール化により複雑な人工物の製造を単純化・効率化するということは論理的に可能だが、一方でアーキテクトが複雑な全体をモジュール型で製造できるよう設計できるということが前提になっている。つまりここでは複雑な人工物を階層化・分解(分析)することで全体と部分の関係性をかなりの正確さをもって俯瞰できる「神」たるアーキテクトが想定されており、複雑性への対応というモジュール化の出発点における発想との矛盾がある。
・ したがって、比較的単純な部品構成でしかも物理空間的制限の少ないデスクトップ(タワー型・大型)コンピュータにおいてはこの理論が説明力を持っても、その一般化には慎重であるべき。大規模な情報システムのインテグレーションなどにおいては非現実的な理論ではないか。「モジュール化」という概念が「成果主義」のようにブームになって「やってみたがうまく行かない」という反動が産業分野によっては来たりするんじゃないかな。まあ、第2部以降はこれから読むのですが。