Baldwin, Carliss Y. Kim B. Clark, “Design Rules, Vol.1: The Power of Modularity,” MIT Press, 2000.
(邦訳:安藤晴彦訳,『デザイン・ルール―モジュール化パワー―』,東洋経済新報社,2004)
[要約]
本書は,ジョン・ホランドの複雑適応系の理論枠組みに従い,設計と産業(ひとつの複雑適応系)に関する独自の進化理論−重要な点は設計のモジュール化が設計の変更メカニズムを劇的に変えること−を構築するものである.設計とは,人間の知能と努力の産物である「人工物」を完全に記述することである.人工物は進化する.本書が対象とするのは,20世紀後半の半世紀に出現した人工物である電子計算機(コンピュータ)である.題に表すモジュール化とデザイン・ルールについて,前者の本質は,意思決定を先延して後で改定する「選択肢」を設計者が持てる点にあり,後者は,他者と協調する上で要求される初期時点の意思決定(他のパラメータの選択には影響するがそれ自身が変更されることはない特権的パラメータ)を指すとしている.モジュール型設計はオプションを創造する,進化できるというのが,本書の中心的なメッセージとなっている.
第T部(第2-5章)では,理論の対象である構造,すなわち人工物,設計,設計プロセスを定義する.第2章で「設計」,「設計プロセス」の細部単位である設計パラメータ(マグカップの色)と設計タスク(色の選択)のレベルでは,設計構造行列(パラメータ間の物理的・論理的な相互依存性を示す)とタスク構造行列(タスクの結びつきを示す)が同一に見えるように作られなければならない(基本的同型性)点に言及し,第3章で設計のモジュール化の定義がなされる.設計パラメータを「可視パラメータ」(デザイン・ルール)と「隠されたパラメータ」(モジュールに格納されシステムの他の部分からは隠されたもの)に類型し,構造行列を補完する階層設計図を示して両者の関係性を要約している.ここでは,デザイン・ルールの強制の費用リスクについて説明している. 最後に,完全なデザイン・ルールが扱う3つの設計情報(アーキテクチャ,インターフェイス,統合プロトコルと検証規準)を示したうえで,コンピュータ産業で現実に起きたモジュール化の例として,ミードとコンウェイが示したモジュール型・非集権的アプローチの再概念化を挙げている.第4章では,設計と設計プロセスが依拠する広範な経済的環境(評価技術と契約技術,誘導技術の存在)について確認し,技術的/経営上の知識双方を含む誘導技術が,最も根本的な法則である「設計者たちが価値を見出し,探求する」ことのニーズに対応するとしている.第5章では,比較的単純な,それゆえどんなモジュール型設計にも適用可能な手法の基本要素となる6つのモジュール化オペレータ(設計の根本的な変化の源泉)を定義している(「分離」「交換」「追加」「削除」「抽出」「転用」;後半の4つはモジュール型構造にのみ適用可能).
以上は,第U部以降で解説される設計進化プロセスを理解するうえで重要な概念となっている. 第U部(第7-8章)では,真のモジュール型の誕生としてIBMシステム/360をとりあげ,価値の実現に向けて要求される「広範な統制」とよばれる特殊な契約構造が持つ力について言及されるが,ここではモジュール化原理として,デザイン・ルール,入れ子状の階層,隠された情報,可視情報がおかれている。本書の中核となる設計進化プロセスについて述べる第V部(第9-13章)では,モジュール型設計を,1)6つのモジュール化オペレータに,2)埋め込まれている有益なオプションを求める,3)多くの設計者達による(局所的なインセンティブに個人と企業が反応できるポイントが多数存在),4)非集権的な探求(自立創業,モジュール・クラスタの出現)によって進化(イノベーションの連鎖)とし,第10章以降で,6つのモジュール化オペレータの経済的な価値について数学モデルを用いて説明している.第13章ではUNIXとIBMのシステム/360との比較により,進化するモジュール型設計の価値が潜在的な利害関係者の間で異なる多数の方法で分配可能であることを示すものとなっている.
[コメント]
モジュール化設計が機能するには、強力なデザイン・ルールの存在が要求される。オープン型経営においても、モジュールが機能するには強力なポリシー(中核能力の見極め)が要求される。完全なデザイン・ルール(あるいはポリシー)をいかに構築するかという共通の視点から、両者の課題を捉えることができよう。
(2004年5月17日 坂井 健太郎)