Baldwin, Carliss Y., Kim B. Clark, “DESIGN RULES: The Power of Modularity,” The MIT Press, 2000.(邦訳:安藤晴彦訳、『デザイン・ルール―モジュール化パワー―』、東洋経済新報社、 2004年.)
[要旨](第1章〜第5章)
本書はテクノロジー、製品、企業、マーケットの構造を掘り下げて理解することにより、経済社会に変化を生み出す「推進力(force)」を理解しようと試みたものである。なぜならば、「推進力」は物事の本質部分とその創造プロセスに根ざしたものだからである。換言するならば、「本書の内容は、設計プロセスと、それが産業構造にいかに影響を与えるかに関するものである。設計とは、特定の機能を発揮する『物事』を創造するプロセスである。これらは人間の知能と努力の産物であり『人工物』と呼ばれる。」(p.2)人工物には有形で触れることのできるものもあるが、ルール、慣習、法体系、知的所有権といった触れることのできないものもある。
モジュール化とは、パラメータとタスクがユニット(モジュール内部)では相互依存性を持っているが、外部からは独立している設計構造である。どんな設計であっても、設計またはタスクの構造行列を用意すれば、独立性と相互依存性を判断することができる。モジュール化のプロセスは一般的には段階を追って徐々に進む。
モジュール型タスク構造は、モジュール化のプロセスで創造される。このプロセスにおいて、設計パラメータは「可視パラメータ」と「隠されたパラメータ」の部分集合に厳密に区分される。可視パラメータはデザイン・ルールとも呼ばれ、これはいったん固定されるとその変更には相対的にコストがかかり、また変更は困難を伴うため、モジュールでのタスク開始に先行して確立される必要がある。一方、隠された設計パラメータの変更には相対的にコストもかからず、変更も容易であるため、モジュール設計者たちの自由裁量に任されている。また、システム内の可視情報と隠された情報の関係性を要約したものが設計階層図であり、これは設計の構造行列またはタスクの構造行列と補完的なものになっている。
モジュール型システムの特徴は、ある設定の中での価値を最大化するために、その構成要素を組み合わせられる点である。組み合わせが可能なのは、設計者たちが、モジュールの機能や、そのモジュールがどのようにはめ込まれ、モジュールの性能が何によって規定されるかを知っていさえすれば、事後にモジュールをどのように調整すべきかについて正確に知っている必要がないからである。つまり、モジュール化の本質は、意思決定を先延ばしにし、後で改訂するオプションを設計者たちに付与することにある。また、デザイン・ルールに支配されるモジュール型設計は、決定論的に事前に計画された試みとは異なり、予期せぬ事象の発生を許容しており、進化することができる。
モジュール型構造での想定される変化は、6つの「モジュール型オペレータ」(@分離、A交換、B追加、C削除、D抽出、E転用)で測ることができる。オペレータは、モジュール型設計の論理に暗黙に含まれる概念ツールの集合であり、構造中の様々な点に異なる組み合わせで適用され、その構造が取り得るすべての進化的経路を生成することが可能である。オペレータのうち、分離と交換は、非モジュール型設計にも適用可能であるが、他の4つは適用できない。オペレータの概念を用いることにより、設計変更の過去、現在、未来を分類・類型化することが可能となる。
[コメント]
有体物・無体物を問わず、人工物をデザインするということのみならず、分散処理型システムの時代における企業の経営戦略の在り方についても多くの示唆をもたらす本である。大企業が君臨した大量生産・大量販売の時代から、ベンチャー企業等による画期的なイノベーションがもたらされる時代への変化をモジュール化のキーワードで明解に捉えることができる。また、イノベーションがもたらす影響や可能性といったものがオプション理論を用いて説明されていることは画期的でもあり、ベンチャー企業の在り方を再考させられた。
(2004年5月17日 藤井 資子)