アリソン、グレアム・T.、(宮里政玄訳)、『決定の本質 : キューバ・ミサイル危機の分析』、中央公論社、1977.
[要旨]
対外的問題に対する国家の決定を分析する際に,略式的な質問にすれば同じように見える問題−なぜソ連はミサイルを建設したのか,なぜアメリカは封鎖したのか,なぜソ連はミサイルを撤去したのか−に対して,3つの『概念モデル』1の相違−謎の組み立て,妥当すると仮定する証拠,証拠を検証する際に用いる概念,説明とみなすものの違い−を明らかにしている。基調にあるのは,分析の基本的単位を選択としての政府の行為におく『合理的行為者または「古典」モデル(第一モデル)』とは異なる,組織的出力としての政府の行為におく『組織過程モデル(第二モデル)』,政治的派生結果(政府のプレーヤーの間のさまざまなかけひきゲームから派生する結果)としての政府の行為におく『政府内=官僚政治モデル(第三モデル)』が,対外的問題のよりよい説明・予測の基礎となりうるという考えである。第一モデルにみるような,目的と合理的選択を前提(情報の有無や計算の難しさという制約はある)として行動(意図あるいは選択を表わす行動:行為)を理解する一般的指向の不完全さについて,筆者は次のように指摘する。すなわち,一個人の行動を説明するのと同じやり方−行動主体を「擬人化」する−で大きな組織や政府の行動を理解しようとする場合,必要とされる多数の人間の調整といった重大な特徴を看過してしまう。問題にすべきはアウトカムの決定要因であり,情報や選択肢や行為を生み出す組織的ルーティンを明らかにする第二モデル,行為を生み出した人がだれで,その人に対してだれが何をしたかを見出す第三のモデルはこの観点を反映している。これら3つの概念モデルは相互補完的なものとして捉えることができ,相互補完的な要素を引き出すことで説明は強化されうるとしている。しかし同時に,互いの意味することが相矛盾する点についても慎重に検討すべきであるとし,この点について,各モデルから導き出される教訓を取り上げている。よく知られている第一モデルの教訓に対して,第二モデルからは,大きな組織の制御と調整が危機時の最重要問題であるとする教訓が,第三モデルからは,核戦争へと発展すると自ら判断する行為を選択する可能性,互いの政府が正確に理解していない国内ゲーム間の相互作用が核戦争というアウトカムを生じさせうるとする教訓が導き出されるとしている。
[コメント]
対象事象を異なる複数の概念レンズを通してみることで、記述を縛っているもの、暗黙のうちに採用している前提、見過ごしているものが浮かび上がらせることができる。互いが示す教訓にこうした違いが現れるが、核戦争は選択されない、核危機は処理可能であるとする第一モデルから導かれる教訓と第三モデルの教訓が対照的である。アウトカムの本質を捉えるには、ある社会的文脈をもつ複数のプレーヤーのかけひきの結果として行為を捉える視点が重要となる。
(2004年11月15日 坂井 健太郎)
[1] 3つの概念モデルのパラダイム,分析の基本的な単位,整理概念,支配的推理パターン,一般的命題については,p.297の表で纏められている。