Allison,Graham T., ”Essence of Decision: Explaining the Cuban Missile Crisis,” Little, Brown and Company, 1971. (邦訳:宮里政玄訳,『決定の本質: キューバ・ミサイル危機の分析』、中央公論社、1977年.)
[要旨]
本書の目的は、著者が「概念レンズ」と呼んでいる3つの分析枠組み(合理的行為者モデル、組織過程モデル、官僚政治モデル)により、キューバ・ミサイル危機の中心的な謎を解明すること、同様な事件について考える際にわれわれの認識にない前提が与える影響を考察することである。
本書で展開されている命題は次の3つである。(1)対外問題の専門家は(一般人と同様に)自らの思考の内容に大きな影響を与える、暗黙の概念モデルに拠って対外・軍事政策の問題を考える(p. 6)、(2)ほとんどの分析者は、合理的行為者または「古典」モデル(第一モデル)と呼ぶ基本的概念モデルに拠って政府の政策を説明(そして予測)する(p. 7)、(3)他の2つの概念モデル(ここでは組織過程モデル−第二モデル、政府内=官僚政治モデル−第三モデルと名付けることにする)は、よりよい説明と予測を生みだすための基礎となる(p. 8)。
合理的行為者モデルにおける分析対象は目的を反映する行動であり、その行為者は政府である。そして行為とは問題に対する解決策を計算のうえ選択することを指す。また、このモデルにおいて「説明」とは、「政府が行動したときに追求していた目標は何か、その行為は合目的的であったかを明らかにすること」を指す。
組織過程モデルにおける分析の基本的単位は、「組織的出力としての政府の行為(p. 93)」である。政府の行為とは、「統一された指導者グループによって部分的に調整された組織的出力(p. 167)」である。ここでの行為者は「政府指導者を頂点とするゆるく連合した組織の集合体」(p. 95)であり、対外問題を監視するために、問題を要素に分解し、それをさまざまな組織に分けることが必要とされている。組織過程モデルにおける組織的活動は、プログラム化されている(状況を問わず、組織行動は既定のルーティン通り実施されたものである)ことが特徴である。また、行為者が責任を有する問題の範囲が限定されているため、このモデルにおいては組織的偏狭主義が助長される。
官僚政治モデルにおける分析の基本的単位は「政治的な派生結果としての政府行動」(p. 188)である。政府行動として現れる決定と行為は、問題に関する解決策として選択されるのではなく、多様な利害関係を持つ公職者の譲歩、紛争、混乱から生起するものである。また、官僚政治モデルでは、プレーヤー(公職にある人間)、各プレーヤーの立場を決めるもの(偏狭な優先順位と認知、目標と利益、利害関係と立場、最終期限と問題の様相)、各プレーヤーの相対的影響力を決めるもの(力)がどのように組み合わさって政府の決定と行為が生み出されるかが分析される。
一群の前提とカテゴリーから成る3つの概念モデルは、単なるアプローチではなく、問題の形成、証拠の所在、解答の出し方等に影響を及ぼすものであり、この3モデルを通じたミサイル危機の分析は、モデルの複雑さと分析上の相違を示している。
[コメント]
本書は、キューバ・ミサイル危機を3つの概念レンズという分析枠組みを用いて考察しているが、どのモデルが正解というわけではなく、それぞれの分析組みからミサイル危機という単一の事象を解明しようとすることにより、分析上の相違が明示されている。ミサイル危機に対する政府の行動でさえ、決定の本質を知ることは不可能なのかもしれないし、意思決定者自身も決定の本質を把握しないまま決定を下しているのかもしれない。政策研究とは一体何をするためのものなのだろうか。 (2004年11月15日 藤井 資子)